1.具体事例紹介
太郎さん(80歳)、太郎さんの長男の一郎さん(54歳)、次男の二郎さん(50歳)は、太郎さん名義の自宅に一緒に暮らしています(太郎さんの奥様は既に他界されています)。
二郎さんは大学卒業後、一般の企業に就職していたのですが、上司との対人関係のトラブル等で精神的に追い込まれてしまい、結果うつ病と診断されました。
二郎さんはその会社を退職し、様々な会社に転職を繰り返したのですが、結局人間関係の問題や、精神的に不安定な部分もあり、どの会社も長く勤める事は出来ませんでした。
現在は自宅からほとんど外出する事がなくなり、いわゆる「引きこもり状態」になっています。
二郎さんの生活は、太郎さんの年金と一郎さんの給料で支える事が出来ているのですが、二郎さんは社会適応が出来なくなっている状態であり、太郎さんと一郎さんはとても心配しています。
一郎さんは地元の企業に勤めているのですが、非常に激務で毎日帰りが遅い為、家事全般と二郎さんの日常の世話は父の太郎さんが行っている状態です。
しかし、太郎さんは高齢の為、足腰が不自由になり、日常の生活に支障をきたすようになり、ますます二郎さんの将来の事を心配するようになりました。
太郎さんは、出来れば二郎さんにはアルバイトでも良いので就職して、少しでも自分の力でお金を稼げるようになってもらいたいと思う一方、万が一太郎さんが亡くなった場合に、二郎さんの生活の支援を一郎さんに頼みたいと考えており、その事は一郎さんも了承しています。
また、太郎さんには自宅の他、預金が数千万円あり、もし太郎さんが亡くなった場合、相続によって一度に沢山のお金を二郎さんが手にする事になります。
しかし二郎さんはほとんど働いた事がない為、金銭管理が全く出来ません。
その為、一度に沢山のお金を得てしまったら金銭感覚が麻痺し、浪費をしてしまう可能性がある事も太郎さんは心配をしています。
2.親なき後問題に家族信託の活用を
本事例は、いわゆる「親なき後問題」と呼ばれている、社会的な問題です。
親なき後問題とは、事例のような引きこもりや、知的障がい等で財産の管理能力に問題がある子供がいる場合に、その両親が亡くなった後、その子供について今までどおり平穏な生活を送れるようにサポートするにはどうすれば良いのか?と言う問題です。
現在引きこもりの方の支援として行政やNPOが様々な支援を行っていますが、財産管理に対する支援も当然必要になってきます。
その為、昨今お金の管理がなかなか難しい家族に対して、生活を支援する為の家族信託が注目されているのです。
3.家族信託を活用すると・・?
それでは、今回のケースにおける家族信託の活用例を見ていきましょう。
まず、委託者を太郎さん、受託者を一郎さん、受益者を太郎さんと二郎さんにします(受益者は複数名にする事も可能です)。
自宅や現金(預金)を信託財産として、信託財産から毎月一定額の生活費を受託者である一郎さんから受益者である太郎さん、二郎さんに渡す事にします。
これで太郎さん、二郎さんは今までどおりの生活が出来ます。
また、仮に太郎さんが認知症等になり成年後見人が選任されたとしても、今までどおり一郎さんは信託財産から太郎さん、二郎さんにお金を渡す事が出来ます。
ここからが重要なのですが、家族信託の当事者が亡くなった場合の事もきちんと決めておかないと、後々トラブルの原因になりますので、必ず決めるようにしましょう。
色々と考える事が出来るのですが、例えば、
・仮に太郎さんが亡くなった場合、二郎さんが受益権の全てを取得する。その後、二郎さんが亡くなった場合、残っている信託財産は全て一郎さんの物にして信託を終了させる。
・仮に一郎さんが先に亡くなった場合に備えて新たな受託者を決めておく(もしくは一郎さんが亡くなった段階で信託を終了させ、残った信託財産の帰属先を決めておく、と言った考え方もあります)。
・二郎さんが先に亡くなった場合は、太郎さんが受益権の全てを取得する(もしくは信託を終了させ、残った信託財産の帰属先を決めておく)。
家族信託でありがちなトラブルは、信託設定当初には想定されなかった事が発生した場合に起こってきます。
しっかりと事前にトラブルの芽を摘むようにしましょう。
4.まとめ
事例のように社会適応力が低く、財産管理能力に乏しい子ども、身体的、精神的、知的等何かしらの障害を持っている子どもを親が生活のサポートや介護している場合には、親が先に亡くなった後において、どのようにしてその子が生活に必要なサポートを受け、今までと変わらず何不自由なく平穏無事な人生を送れるようにするかが非常に大きな問題となってきます。
家族信託はこのような子どもに対して、財産面における適切なサポートを行う事が可能です。