事例(3)【認知症の配偶者がいる場合の、相続対策のための家族信託】

民事信託・家族信託の事例

1.具体事例紹介

太郎さん(80歳)には奥様の花子さん(75歳)がいらっしゃるのですが、認知症になり、意思能力・判断能力が低下した為、申立てにより成年後見人(司法書士)が選任されました。

また、介護等が必要となった為、近くの施設に入所しています。

また、太郎さんには近所に住んでいる一人息子の一郎さん(60歳)がいらっしゃいます。

太郎さんの悩み事は、ご自身の相続の事です。

太郎さんはご自宅以外にも複数の不動産を所有しており、その管理が大変な為、数年前に家族で話し合い、もし太郎さんが亡くなった場合は全ての財産を一郎さんが相続する事に決めていたそうです。

その事について花子さんも賛成していました。

しかし、花子さんは今、認知症になり成年後見人が選任されています。

その為、もし太郎さんが亡くなった場合、成年後見人は花子さんの権利を守る為に、遺産分割協議において、花子さんの法定相続分を主張してきます。

これは以前の花子さんの意思は関係ありません。

成年後見人の職務として、必ず法定相続分を主張してきます。

そうすると大半の不動産が花子さんと一郎さんの共有状態になり、その管理や処分に支障をきたす可能性があります。

また、太郎さんが一郎さんに全ての財産を相続させる旨の遺言を残しても、花子さんの成年後見人は花子さんの最低相続分である遺留分を主張してくるでしょう。

結局のところ、せっかく家族間で話し合った事が実現する事が出来なくなり、太郎さんは毎日眠れないぐらい悩んでいます

2.成年後見人の職務はご本人の利益を守る事

本事例で少し疑問に思われた方の為に補足して説明します。

成年後見人の仕事はそもそも何なのか?と言うお話なのですが成年後見人はあくまで被後見人(事例で言えば花子さん)の利益を第一に考えてその仕事を行う事が法律上義務付けられています。

確かに、数年前に家族間で太郎さんの相続について話し合った時は、太郎さんの全ての財産は一郎さんが相続する事にしました。

花子さんもそれに納得しています。

しかしそれは、あくまで昔の花子さんの意思であり、現在はどうか分かりません。

その為、成年後見人は花子さんの昔の意思とは関係なく、現段階における花子さんの利益を最優先します。

それが法律上定められた成年後見人の義務だからです。

その為、遺産分割協議では必ず法定相続分の主張を行いますし、仮に遺言で遺留分を侵害されているのであれば、遺留分侵害額請求を行い、被後見人である花子さんの利益を守るのです。

3.家族信託を活用した解決方法


それでは、今回のケースにおける家族信託の活用による解決方法を見てきましょう。

  
まず、委託者兼受益者を太郎さん、受託者を一郎さんとします。

信託財産は不動産と、不動産を管理する事ができる現金です。

太郎さんが亡くなった後の次の受益者を一郎さんと花子さんの共有にし、その受益権の割合を、一郎さん4分の3、花子さん4分の1とします。

このように花子さんの遺留分を受益権としてきちんと確保する事により、花子さんの成年後見人は遺留分の主張を行う必要がなく、本来の仕事に専念出来ます。

また、太郎さんの全ての財産を信託財産にしていますので、不動産の名義は受託者である一郎さん名義になっております。

その為、不動産の管理や処分も一郎さん単独で行う事が出来て、ここでも花子さんの成年後見人は複数の不動産の管理・処分を行う必要がなく、本来の仕事に集中出来ます。
 
そして、花子さんがもし亡くなった場合、その受益権を一郎さんが取得する事にして、信託を終了させます。

このような家族信託を設定する事により、当初家族間で話し合っていた事が実現出来ますし、花子さんの成年後見人にとってみても、不必要な事を行う必要がない、と言う結果になるのです。

4.まとめ

事例のようにご家族の方に認知症の方がいらっしゃる場合は、必ず相続対策が必要になります。

意思能力、判断能力が無ければ遺産分割協議を行う事が出来ませんし、成年後見人が選任されたら、非常に厳格に法律上の権利を主張され、柔軟な解決が困難になります。

ご家族の方に認知症等の方がいらっしゃる場合の相続対策として、家族信託のご利用をぜひご検討下さい。

文責:この記事を書いた専門家
司法書士 甲斐智也

◆司法書士で元俳優。某球団マスコットの中の経験あり。
◆2級FP技能士・心理カウンセラーの資格もあり「もめない相続」を目指す。
◆「相続対策は法律以外にも、老後資金や感情も考慮する必要がある!」がポリシー。
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