事例(4)【株式の譲渡を柔軟に行う、事業承継の為の家族信託の活用】

民事信託・家族信託の事例

1.具体事例紹介

太郎さん(65歳)は中小企業である株式会社Aの創業者であり、現経営者です(株式の100%を所有)。

株式会社Aは太郎さんが一代で築き上げてきた会社ですが、そろそろ会社を長男の一郎さんに任せたいと思っています。

一郎さんは名目上は株式会社Aの取締役なのですが、株式を一切有していないため議決権はありません。

その為太郎さんは自分が保有している株式を少しずつ譲渡したいと考えています。

しかし、太郎さんは一郎さんの経営手腕について全てを信頼しているわけではない為、もし経営者として不適切だったら・・・と考えると、株式の譲渡について躊躇しているのが現状です。

その為、株式会社Aの事業承継が思うように進んでおらず、太郎さんは大変困っている状態です。

2.家族信託以外の他の方法での対応はあるか?

まず、家族信託以外の方法で太郎さんの希望を叶える事が出来ないか考えてみましょう。

まず思いつくのが株式の贈与です。

太郎さんが一郎さんに株式を譲渡する事により、一郎さんは株主として株式会社Aの議決権を行使する事が出来ます。

しかし一度に全ての株式を贈与してしまえば、場合によっては多額の贈与税を支払う事になるかもしれません。

その為、贈与税の非課税枠の中で毎年少しずつ株式を贈与する事が現実的かもしれません。

しかし、株式を贈与していて、やはり一郎さんが経営者として不適切だった場合、その株式を簡単には太郎さんに戻す事が出来ません。

つまり、株式の贈与は太郎さんと株式会社Aの現状に照らし合わせると、妥当ではないでしょう。

次に株式を一郎さんに相続させる為に、太郎さんが遺言を作成する事が考えられます。

しかし遺言は太郎さんが亡くなってから効力が発生するものであり、太郎さんが生きている間は、一郎さんは議決権を行使する事が出来ず、結局はあまり意味が無いものになります。

この様に、現状の制度では、太郎さんの理想を叶える事は中々難しいと言えます。

3.家族信託を利用した事業承継 -スムーズな後継者育成のためにー

それでは、太郎さんのお悩みを家族信託を活用して解決してみましょう。

委託者兼受益者を太郎さん、受託者を一郎さんにして、信託財産を株式会社Aの株式とします。

このような家族信託を設定しますと、株式会社Aの株式の名義は一郎さんにありますので、一郎さんは議決権を行使する事が出来ます。

また、受益権は太郎さんにありますので、配当金を受け取る株主としての権利は太郎さんのままとなります。

ここからが重要なのですが、一郎さんが議決権を行使するについて、太郎さんが一定の指図を行う事が出来る『指図権』を信託契約の中で定めます。

この『指図権』を信託契約の中に盛り込む事により、株式の名義は一郎さんになっているとしても、太郎さんも経営に参加する事が可能となります。

また、もし一郎さんの経営者としての資質が不適格な場合、太郎さんの判断で信託契約を終了させ、株式を太郎さんに戻す事も信託契約の内容としていれば万が一の状況にも対応出来ます。

さらに、太郎さんが亡くなった場合の受益権の行方も信託契約の中で設定すると良いでしょう。

(一郎さんが受益権を取得して信託を終了させる、若しくは他の人に受益権を取得させる、等。)

このように、家族信託と指図権を上手く利用する事により、事業承継における後継者の育成がスムーズにいきます。

4.まとめ

中小企業の経営者にとっては、事業承継の問題は非常に重要です。

後継者に対してどのようなかたち、方法で株式、経営権を譲渡していくのか?非常に頭を悩ます問題だと思います。

事業承継の方法は様々ありますが、事業承継においても家族信託は非常に使い勝手が良い制度となっております。

事業承継の事でお悩みの場合は、一度家族信託の利用をご検討下さい。

文責:この記事を書いた専門家
司法書士 甲斐智也

◆司法書士で元俳優。某球団マスコットの中の経験あり。
◆2級FP技能士・心理カウンセラーの資格もあり「もめない相続」を目指す。
◆「相続対策は法律以外にも、老後資金や感情も考慮する必要がある!」がポリシー。
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