認知症対策や相続対策。家族信託が必要な理由

※家族信託の基本的な事は下記をご参照下さい。
【家族信託のスキーム、流れから注意点まで分かりやすく解説します】

平成18年に信託法が改正され、ご家族がご家族の為に財産管理を行う事が出来る「家族信託」が本格的に利用出来るようになりました。

最近ではTVやその他メディアで「家族信託」と言う言葉が使われるようになり、少しずつ世の中に浸透しつつある状態です。

しかし、財産の管理の方法は以前から成年後見や遺言と言った制度がありますので、「本当に家族信託は必要なのか?」と疑問に思われている方も少なくありません。
 
結論から申し上げますと、家族信託でしか解決出来ない問題がある為、必要なのです。今回は、家族信託はなぜ必要なのか?と言ったお話をしていきたいと思います。

 

1.認知症対策としての家族信託

① そもそも、なぜ認知症対策が必要なのか?

まず、大前提のお話をしたいと思います。どうして、認知症になった時の財産の管理等の対策が必要なのでしょうか?

厚生労働省の2015年1月の発表によりますと、日本の認知症患者数は2012年時点で約462万人、65歳以上の高齢者の約7人に1人と推計されています。

さらに、団塊の世代が75歳以上となる2025年には、認知症患者数は700万人前後に達し、65歳以上の高齢者の約5人に1人を占める見込みと言う推計も出ています。

その為、今は元気でももしかしたらそのうちに認知症に・・・全ての方にとって、そのような可能性はゼロではありません。この点からも、認知症対策は必須と言えます。

② 財産に関する認知症対策を行わなかった場合

突然ですがクイズです。

ご両親がもし認知症になっても、ご家族が認知症のご両親に代わって、ご両親の預金を引き出す事が可能である。〇か×か?

正解は当然×なのですが、実は、とあるアンケート調査で、ご両親が認知症になってもその預金を引き出す事が出来る、と答えた方が全体の半数近くいたそうです。

それではまたクイズです。

ご両親がもし認知症になっても、ご家族が認知症のご両親に代わって、ご両親の自宅を売却する事が可能である。〇か×か?

これも当然×なのですが、実はこの回答も、「売却する事で出来る」と答えた方が全体の半数近くいたそうです。

私の所にも「親が認知症になったんですが、自宅を売却する事が出来ますか?」と言うご相談を受ける事があります。認知症の程度にもよりますが、原則ご両親の自宅の売却は出来ません。

理由は、預金は原則名義人しか引き出す事が出来ないからです。ご本人以外の預金の引き出しは金融機関から拒否をされます。

また、自宅の売却行為は所有者である売主が行う必要があり、売主としてきちんと売買契約を成立させる為には自宅を売却すると言う意味をきちんと理解している事、つまり意思能力、判断能力が必要です。

ですが、認知症になった場合、この意思能力、判断能力が無い場合があり、そうなると有効な売買契約を締結する事は不可能です。
 
ご両親が認知症になったら、そのままではご両親の財産を活用する事が出来ません。その為、ご両親の財産の管理の為に後見の申立てを行い、家庭裁判所から選任された成年後見人がご両親の財産を管理する事になります。

しかし、成年後見人は原則、ご両親の財産の維持しか出来ません。財産の処分や積極的な投資を行う事が出来ないのです。その為、ご両親が元気な時に、

・相続税対策の為に、ご家族に贈与税の非課税の枠で生前贈与を毎年行っていても、
・同じく、相続税対策で所有している土地にアパートを建設して、今後も同様の相続税対策を行う予定であったとしても、
・もし認知症等で施設に入所した場合、自宅を売却して欲しいと言っていても

上記に挙げた事は原則出来なくなるのです(自宅の売却は事情によっては可能な場合がありますが、家庭裁判所の厳しいチェックが入ります)。

③ 認知症対策としての家族信託の活用

ところが、家族信託を利用すると、上記の問題が解決するのです。例えご両親が認知症になったとしても、

・金銭を信託財産とする事で、受託者であるご家族の方が、生前贈与を続ける事が出来ます。
・所有している土地や金銭を信託財産とする事で、受託者であるご家族の方が今まで通りの相続税対策を行う事が出来ます。
・自宅を信託財産とする事で、ご両親の関与なく受託者であるご家族が必要に応じて自宅を売却する事が出来ます。

これらの事は現状の成年後見制度では不可能です。家族信託を利用して初めてご両親の意思を実現する事が可能となります。

 

2.相続対策としての家族信託

① 遺留分減殺請求を封じて、妻のために自宅を守る相続対策

家族信託はもめない為の相続対策としても活用する事が出来ます。具体例で解説してみたいと思います。

【事例】
守さんは悩んでいました。先月の健康診断で初期のガンが見つかり、自分にもしもの事があった時の為に色々と考えていたのですが、問題は一人息子の武士さんです。

武士さんは40歳を過ぎてもまともに働いておらず、何かにつけて守さんにお金を無心してきます。その為、守さんのめぼしい財産は自宅のみとなり、守さん自身も経済的に厳しい生活をしています。

守さんは、「もし自分が死んだとしても、自宅だけは妻の春子に絶対に残してあげたい」と思っています。果たして守さんの思いを実現させる事は出来るのでしょうか・・・?

② 家族信託以外の対応方法

まず、自宅を春子さんに残す為に、自宅を春子さんに相続させる旨の遺言を作成する事が考えられます。しかし、武士さんには最低相続分である遺留分があります。

武士さんは40歳になっても働いていない為、確実に遺留分減殺請求を行ってくるでしょう。その為、遺留分を請求された場合、春子さんは金銭で支払う必要があります。

しかし、めぼしい財産は自宅のみです。武士さんに遺留分として支払うお金もきっとないでしょう。

そうすると、遺言を無視して自宅を共同で相続する方法があります。しかしそれは自宅の名義が共有になると言う事であり、残された春子さんにとっては避けたい事態でしょう。

このように、武士さんには遺留分がある為、現行の相続対策では限界があるのです。

③ 家族信託を利用すると、遺留分減殺請求を事実上封じる事が出来る

それでは、家族信託を利用して、何とか春子さんの為に自宅を守る方法を考えてみましょう。

まず、委託者兼受益者を守さん、受託者を春子さん、二次受益者を春子さんと武士さんとし、信託財産を自宅とする信託契約を締結します。

さらに、二次受益者に与える受益権の割合として、春子さん4分の3、武士さん4分の1とします(このような取り決めも可能です)。そして、受益権の処分には受益者の過半数の合意が必要とする特約も契約内容に盛り込みます。

このような家族信託を利用した場合、もし守さんが亡くなったら、受益権が春子さんと武士さんに移動します。

受益権も遺留分減殺請求の対象となると考えられているのですが、武士さんは遺留分相当額の4分の1の権利を得ており、その為、遺留分減殺請求は不可能になります。

また、自宅の名義は信託契約を締結した事により受託者の春子さん名義になっています。これは守さんが亡くなったとしても何も影響を受けません。

さらに受益権の処分について特約で制限を課していますので、武士さんは結局何も出来ない事になります。

このような家族信託を設計する事で、守さんの「妻の為に自宅を守りたい」と言う思いが実現出来る事になります。

 

3.まとめ

このように、家族信託を上手に活用する事で、成年後見や遺言等で不可能だった事が出来るようになるのです。

ただし、家族信託を活用する場合は、各ご家庭のご事情をきちんと精査した上で行う必要があります。当然ながら、今回ご紹介した方法が利用出来ない事だってあります。

その為、家族信託のご利用をお考えの場合は、必ず専門家にご相談するようにして下さい。

 

 

 

【このブログの著者】

甲斐 智也(かい ともや)
司法書士/上級心理カウンセラー
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