相手を叩きのめす、勧善懲悪では相続は失敗しますよ

相続トラブル事例

こんにちは。司法書士の甲斐です。

相続発生後に関するご相談で、当事務所で一番多いのが、

「他の相続人が連絡を無視していて、遺産分割協議ができない」

と言う内容です。

何も理由がなく、人が人の事を無視する事はあり得ないので、『他の相続人が連絡を無視している理由』は必ずあります。

ところが、ほとんどの場合、この『他の相続人が連絡を無視している理由』にしっかりと向き合わないんですね。

逆に感情的な言葉を投げかけてしまい、その結果、修復不可能な状態になる事もあります。

今回は、そのような当事務所で良くあるご相談事例をご紹介して、本来あるべきだった対応方法をお話ししていきたいと思います。

(ご紹介する事例は、良くあるご相談事例を参考にしたフィクションです。)

1.事例紹介

ご相談者はAさん(52歳)です。

亡くなったのはAさんの父親で、相続人は被相続人の子供でAさんとBさんです。

ご相談は、Aさんがどんなに相続の事を話し合いたいとBさんに連絡をしても、Bさんは一切連絡を無視していて困っている、と言う内容です。

AさんとBさんの父親は教育や躾に非常に厳しく、AさんとBさんは事あるごとに躾と言う名の暴力を振るわれたそうです。

確かにいたずらや悪い事もしたらしいのですが、ほとんどの場合、その暴力は理不尽なものだったそうです。

その為、AさんとBさんは父親の事を非常に憎く思っており、亡くなった事に正直、「ほっとした」そうです。

その後、問題が発生しました。

Aさんは、

「どんなにムカつく人間であっても自分の父親なのだから、葬儀等を行うのは当然だ」

と言う考えできちんと葬儀等を行おうとしたのですが、Bさんはこれに猛反対。

次男

なんであんな人間のクズの葬儀をする必要があるのか!あんなのほっとけば良いんだよ!!

この、父親の葬儀を巡る意見の違いから、AさんとBさんは対立し、結局Bさんは父親の葬儀等を一切手伝わず、Aさんからの連絡を無視するようになりました。

2.連絡を無視している相続人に送ってはいけない手紙

このようなケースの場合、私はまずは相談者が連絡を無視している相続人(Bさん)に対して送った手紙の内容を確認するようにしています。

具体例を見てみましょう。

(省略)実家を売却する為には、Bの協力が必要です。

同封した書類に署名・押印して返信して下さい。

父親に対して様々な気持ちはあると思いますが、一般常識がある人間であれば、自分の父親の葬儀等を行うのは当然です。

それを拒否したBは常識外れな人間です。

俺はあの時に感情的になりましたが、Bも自分の常識のなさを反省して下さい。

そもそも、お前は昔からそうでしたね。

自分のワガママのために、常に周りの人間を振り回して迷惑をかけてきました。

そして、今回の非常識な対応・・・恥と思って下さい。

(省略)

ものすごく感情的な文面ですが、実際に良く有る文面です。

客観的に見れば、このような文章を受け取った相手は憤慨するのは容易に想像できますよね?

次男

常識がないってどう言う事だよ!?あんたの方こそ常識ないでじゃないか!!

Bさんが連絡を無視するのは、当然だと思います。

しかし、Aさんはいたって『正しい事』をしている感覚なのです。

客観的に見ればAさんの行為は絶対にやってはいけない事です。

ところが、『相続の話し合いができずに困っている』人のほとんどが、このような対応を行っています。

どうして相続手続きが進まなくなる『相手から無視される』行為であると分からずに、このような対応を行うのでしょうか?

疑問に思いませんか?

3.人は勧善懲悪が大好き

その理由はいたってシンプルです。

人は、『勧善懲悪』が大好きだからです。

子供の頃に、戦隊ヒーロー物を見ませんでしたか?

悪い怪物をヒーローがやっつけるところを見て、心がスカッとしませんでしたか?

大人向けのTVドラマでも、傍若無人な権力、理不尽な暴力に立ち向かう真っすぐな主人公を応援したくなりませんか?

このように、人は『勧善懲悪』が大好きなんです。

自分の正義感に照らし合わせて、連絡を無視している相手の行為は『悪』そのものなんです。

だからこそ、自分は『正しい者』として感情をぶつけ、相手をギャフンと言わせたい。

ところが、現実の世界では作られた物語とは異なり、

「私が悪かったです。ごめんなさい」

と、相手が自分の非を認める事はまずありません。

なぜだか分かりますか?

相手にも、相手なりの「正しさ」があるからです。

「親から暴力を振るわれた際、兄は一度たりとも助けてくれた事はない」

「風邪をひいて咳をしたら、兄から『うるさい!』とどなられた」

等、理不尽な扱いをされていたのかもしれません。

それが長年積み重なれば、「会いたくない」「関わりたくない」と思うのは当然であり、相手を非難するような手紙を送ればそれがトリガーになり、進展しない相続問題に発展するのです。

現実社会はTVドラマ等とは異なります。

『正さ』の反対は『もう一つの正さ』です。

『正論』をぶつけると、もう一つの『正論』が返ってくるだけです。

4.相続の目的って、何ですか?

相続の目的って、何でしょうか?

連絡を無視している相続人を完膚なきまでに叩きのめす事ですか?

言いたい事を言い合って、あなたのストレス解消を行う事ですか?

相続の目的、それは遺産分割協議を行い、各遺産の相続手続きを行い、相続税の申告・納税が必要であればそれを行う事です。

その目的を達成する為には、あなた自身の感情をコントロールしてしっかりと話し合いをまとめる必要があります。

客観的に見て、相手が間違っている、常識がない行動をとっている事も、もちろんあるでしょう。

でもそれを、一旦横に置いておいて相続の話し合いをまとめる事で、何年も話し合いがまとまらない致命的なデメリットを回避する事ができるのです。

5.まとめ ー大切なのは想像力-

人は感情の生き物ですので、どうしても「相手の間違ったところを正したい!」と言う気持ちになるのはしょうがない事です。

しかし、相続の目的はあくまで話し合いをまとめる事です。

私は良く、他の相続人の事で感情的になっている相談者の方に対して、このような質問を投げかけています。

〇〇さんにそのような事を言った場合、どのような結果になると思いますか?

あなたも、もし他の相続人の事で感情的になりそうになった時は、ご自身でこのように問いかけてみて下さい。

自問自答する事で冷静になる事ができて、相続の目的を見失わずにすむようになります。

「この発言をした場合、どのようになるのか?相続の話しがまとまるのか?」

文責:この記事を書いた専門家
司法書士 甲斐智也

◆司法書士で元俳優。某球団マスコットの中の経験あり。
◆2級FP技能士・心理カウンセラーの資格もあり「もめない相続」を目指す。
◆「相続対策は法律以外にも、老後資金や感情も考慮する必要がある!」がポリシー。
(詳細なプロフィールは名前をクリック)

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