
こんにちは。司法書士の甲斐です。
今回は、不動産の売買契約締結後、買主が亡くなった時に行うべき登記手続きを分かりやすくお話しします。
なお、売主が亡くなった時の登記手続きについては、下記のページをご覧下さい。

1.売買契約締結後、買主が亡くなった場合
まず、法律の原則論からお話しします。
不動産を含め、何らかの物について売買契約を締結した場合、即座にその物の所有権が売主から買主に移転します。
つまり、このケースでは所有権が移転した後に亡くなっていますので、亡き買主が購入した不動産は相続財産として相続人に引き継がれます。
ところで、ここで一つ疑問に思いませんか?
売主から買主への所有権移転登記が行われていない段階で買主が死亡した場合、売主から直接買主の相続人へ所有権移転登記が出来るのか?と言う点です。
買主は既に亡くなっていますので、直接所有権移転登記が出来そうな気がしませんか?
実は、このケースでは、直接買主の相続人に所有権移転登記を行う事が出来ず、一旦亡き買主名義に所有権移転登記を行う必要があります。
登記と言うのは不動産の履歴書であり、どのように権利関係が移り変わったのかを正確に記録する必要があります。
その為、買主名義の登記を省略する事が出来ないのです。
なお、相続人が複数いた場合、買主名義の登記はその内の一人から行う事が出来ます。
2.亡き買主名義への所有権移転登記の登記申請書(例)
登記申請書 登記の目的 所有権移転 原 因 平成30年3月3日 売買 権 利 者 横浜市泉区和泉中央北南一丁目2番3号 義 務 者 横浜市西区西台三丁目4番5号 添 付 書 類 登記原因証明情報 (以下省略) |
※ 住所証明情報は亡くなった買主の住民票等を添付します。
※ 相続証明情報は戸籍謄本等、買主の相続人である事が証明できる書面です。
3.売買契約締結後、残金決済前に買主が亡くなった場合(実務上多いパターン)
売買契約を締結した場合、その瞬間に所有権が売主から買主に移転するのが原則です。
ところが、通常の不動産取引では、『売買代金の全額が支払われるまで所有権が移転しない』と言う所有権移転時期の特約がついているのが通常です。
この場合、売買契約締結後、残金決済前に買主が亡くなったとしても、不動産は買主の相続人へ相続されません。
なぜなら、売買代金は支払われておらず、所有権はまだ売主にあるからです。
それではこのような状況の場合、一体どうすれば良いのでしょうか?
実は、売買契約そのものは有効なままですので、買主の相続人は、『買主の地位』を相続する事になります。
買主として売主から不動産を引き渡してもらう権利、売主に売買代金を支払う義務が発生します。
つまり、売買契約に基づいて、そのまま買主として残金決済を行えば良いのです。
なお、相続人が複数いた場合、遺産分割協議で相続人の一人だけが買主の地位を相続する事ができますが、注意が必要です。
買主の地位の中で『売主に売買代金を支払う義務』については、相続が発生した瞬間に各相続人に強制的に法定相続分で引き継がれます。
遺産分割協議で相続人の一人が売買代金を支払う事にしても、それだけでは売主に対抗する事は出来ません。
その為、買主の地位を相続した相続人のみが売買代金を支払いたい場合、別途売主と合意する必要があります。
元々の売買契約の中で、
「買主が死亡した場合、買主の地位を相続した相続人のみが売買代金全額を支払う事を、売主は合意した」等の特約を事前に入れておくのも良いかもしれません。
4.決済前に買主が亡くなった場合の登記原因証明情報(例)
登記原因証明情報 1.登記申請情報の要項 (4)不動産の表示 2.登記の原因となる事実又は法律行為 (1)売買契約 (以下、省略) |
5.買主が亡くなった場合のさらなる問題点
売買契約締結後、残金決済前に買主が死亡した場合、さらに問題点があります。
それは、
「買主が住宅ローン等を利用予定の場合、金融機関の審査がやり直しになる」と言う点です。
住宅ローン等は個人の信用情報を元に融資の決定を行います。
その為、買主が死亡しその相続人が買主の地位を引き継いだ場合、融資の審査がやり直しになります。
つまり、相続人によっては融資の審査が通らず、結果として売買契約を解除するしかない状況になる可能性も出てきます。
この点に関しては、金融機関にしっかりと確認する必要があります。
6.まとめ
売主が死亡した場合と同様ですが、所有権が移転する時期によって行うべき登記手続きは変わってきます。
法律上どの段階で所有権が移転するのか?売主・買主に相続が発生した場合は、絶対に外してはいけないポイントになってきます。