自宅を妻に生前贈与したい場合(配偶者控除)

相続対策・認知症対策

こんにちは。司法書士の甲斐です。

今回の記事は、自宅の名義を妻に変更したい事についてご相談、ご依頼されたい方向けの記事です。

(なおご紹介する事例は、良くあるご相談を参考にした創作です。)

【事例】
Q:私は30代の時に、結婚と同時に自宅を購入し、それから30年以上が経過しました。

近頃はTVや新聞等で相続対策の特集が良く記載されており、私も年齢を重ねましたので、そろそろ相続の事を考えようと思っています。

その中で、自宅を妻に生前贈与すると相続対策になると聞きました。自宅の名義を妻に変更する事でどのようなメリットがあるのかを教えて下さい。

1.夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除

ご自分の財産を第三者にタダであげる(=贈与)場合、その金額が年間で110万円を超えた場合、超えた部分に対して贈与税が発生します。

税率は最低で10%(200万円以下)、最高で55%(3,000万円超)となります。

控除金額も少なく税率も高いため、自宅を妻に贈与したい場合、本来であれば数百万単位で贈与税が発生します。

その為、自宅の名義を変える事に躊躇してしまうかもしれませんが、一定の条件のもとであれば、自宅を配偶者へ贈与した場合、贈与税の基礎控除110万円のほかに最高2,000万円まで控除(配偶者控除)できるという特例があります。

これが夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除と呼ばれる特例です。

2.居住用不動産を贈与したときの配偶者控除の要件

① 夫婦の婚姻期間が20年を過ぎた後に贈与が行われた事

法律上の夫婦関係である事が必要です。

いわゆる事実婚状態(内縁関係)の場合、この特例を使う事は出来ません。

② 居住用不動産、又は居住用不動産を取得するための金銭の贈与である事

自分が住む為の国内の居住用不動産、又は居住用不動産を取得するための金銭の贈与である事が必要です。

あくまで自宅の為の制度ですので、それ以外の目的では利用出来ません。

③ 引き続き居住する事

贈与を受けた年の翌年3月15日までに、贈与により取得した国内の居住用不動産又は贈与を受けた金銭で取得した国内の居住用不動産に、贈与を受けた者が現実に住んでおり、その後も引き続き住む見込みである必要があります。

3.居住用不動産を贈与したときの配偶者控除の注意点

① 一生に一度しか利用出来ない

居住用不動産贈与の配偶者控除は、同じ配偶者からの贈与については一生に一度しか適用を受けることが出来ません。

② 贈与を受けた者が先に亡くなれば意味がない

相続対策として考えた場合、居住用不動産贈与の配偶者控除を利用する意味は、贈与者(事例で言うと夫)が受贈者(事例で言うと妻)より先に亡くなる事が前提で、自分の相続人である配偶者の為に自宅を残す為に利用される制度です。

その為、受贈者(妻)が先に亡くなった場合、自宅は相続財産となりますので、贈与をした意味が無くなってしまいます。

③ 他の相続人の遺留分を侵害する可能性がある。

兄弟姉妹以外の相続人には最低相続分の遺留分があります。

その為、自宅を妻に贈与したら他の相続人の遺留分を侵害する場合、その遺留分対策も必要になってきます。

4.自宅を妻に生前贈与するメリット

相続税の方が贈与税と比較して、基礎控除の額も大きく、様々な特例がありますので、場合によっては、贈与税より相続税の方が安くなる事もあります。

その点で言えば居住用不動産贈与の配偶者控除を利用してでも、自宅を妻に生前贈与するメリットは無いのかも知れません。

では、自宅を妻に生前贈与するメリットとはそもそも何なのでしょうか?

① 自宅を妻に確実に残す事が出来る

相続が発生した場合、自宅の処分を巡って相続人間で対立する事があります。

場合によっては『あんなに仲が良かった妻と子どもが相続をきっかけに仲が悪くなり、子どもが自宅を自分名義にして売却し妻を追い出す』と言った事も起こる可能性があります。

しかし、自宅を生前贈与して名義を妻に変更していれば、自宅は相続財産にはなりませんので、妻の為に自宅を確実に残す事が出来ます。

② 相続税の負担が少なくなる可能性がある

自宅が相続財産ではなくなる=相続税の課税対象となる財産が少なくなると言う事ですので、結果として相続税の負担が少なくなる可能性があります。

また、通常の贈与は、贈与してから3年以内に相続が発生すると、その贈与がなかったものとみなされ、相続財産に加算して相続税を計算します。

しかし、居住用不動産贈与の配偶者控除を利用して自宅を贈与した場合、3年以内に相続が発生しても相続財産に加算される事はありません。

5.まとめ

相続対策をまとめた書籍やWebサイトを見ていますと、やたらとこの「居住用不動産贈与の配偶者控除」を利用した自宅の贈与を積極的に進める記事が目に付きます。

しかしながら、この特例を利用した生前贈与にもデメリットはあります。

特に贈与を受けた者が先に亡くなってしまった場合、全く意味がなくなってしまう事には十分にご注意下さい。

とは言え、自宅の生前贈与には上述のとおり、メリットも沢山あります。

十分にご検討して頂き、生前贈与を行って頂ければ良いと思います。

当事務所では生前贈与およびその後の名義変更(登記)のご相談も承っております。

ご自宅の生前贈与についてお困り、お悩みの場合はお気軽にお問い合わせ下さい。

文責:この記事を書いた専門家
司法書士 甲斐智也

◆司法書士で元俳優。某球団マスコットの中の経験あり。
◆2級FP技能士・心理カウンセラーの資格もあり「もめない相続」を目指す。
◆「相続対策は法律以外にも、老後資金や感情も考慮する必要がある!」がポリシー。
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