
こんにちは。司法書士の甲斐です。
相続手続きにおいて必要不可欠なのが「遺産分割協議書」です。
どの相続人がどんな遺産を取得するのかについて、相続人全員の合意が調った事を証明する書類で、預金の解約や不動産の相続登記等、様々な場面で要求される書類です。
このように遺産分割協議書は相続手続きにおいて切っても切れない重要な物なのですが、遺産分割協議書に良く似た「遺産分割(協議)証明書」と言う書類があるのをご存知でしょうか?
今回は遺産分割協議書と良く似た「遺産分割証明書」の作成方法とその注意点をご紹介します。
この遺産分割証明書はインターネット上でも嘘の情報がありますので、本ページで正しい知識を勉強して、適切な相続手続きにお役立て下さい。
1.遺産分割(協議)証明書とは?
遺産分割証明書とは、相続人間で合意が成立した遺産分割協議の内容を証明する書類です。

え?それって遺産分割協議書と同じでは?
と思われたかもしれませんが、実はそれは正解です。
遺産分割協議「書」も遺産分割「証明書」もその趣旨は全く同じで、「遺産分割協議」がきちんと成立した事を証明する為のものです。
では何が違うのかと言えば、遺産分割協議「書」には実務上、相続人全員の署名、実印押印が求められるのに対し、遺産分割「証明書」は、同じ内容の書面が相続人分存在し、1通の証明書には1人の署名・実印押印が行われる書類です。
遺産分割協議書は一枚(一通)の書類に相続人全員が署名・押印するのが通常です。
しかし、相続人全員が一同に会う事が出来れば良いのですが、相続人がそれぞれ遠方に住んでいる場合、書類のやり取りを郵送等で行う必要があります。
そうすると時間もかかりますし、書類の紛失の可能性もあるでしょう。
そこで、同じ内容の書面を相続人分用意し、一人が一枚(一通)に署名押印して、その書類を全部揃えて相続手続きを行う方法が考えられました。
それが遺産分割証明書です。
2.遺産分割証明書の具体例
遺産分割証明書
下記の者の死亡により開始した相続につき、共同相続人全員が令和〇年〇月〇日、相続財産について協議した結果、後記のとおり遺産分割の協議が成立したことを証明する。注1
被相続人の氏名 山田 太郎
本籍地 神奈川県横浜市〇〇区〇〇一丁目2番
死亡年月日 令和〇年〇月〇日
第1 相続財産中、下記の不動産については相続人、山田花子が相続する。
所 在 横浜市横浜市〇〇区〇〇一丁目
地 番 2番3
地 目 宅地
地 積 70.12㎡
所 在 横浜市横浜市〇〇区〇〇一丁目2番地3
家屋番号 2番3
種 類 居宅
構 造 木造スレートぶき2階建
床面積 1階 48.02㎡
2階 44.71㎡
第2 相続財産中、下記の預貯金については相続人、山田一郎が相続する。
〇〇銀行 〇〇支店 普通口座 口座番号 〇〇〇〇〇〇〇
第3 本協議以後、別途遺産が発見された場合は、当該遺産について相続人間で改めて協議し、分割を行うものとする。
注2令和〇年〇月〇日
住所 〇〇〇〇〇〇
氏名 〇〇〇〇 ㊞
注1・・・遺産分割協議が成立した日を記載します。
(この日付けは全ての書類で一致している必要があります。)
注2・・・遺産分割証明書に署名・押印した日付を記載します。
(この日付けは相続人ごとに違っていても大丈夫です。)
3.遺産分割証明書の注意点
遺産分割証明書の注意点、それは、全ての証明書に記載されている遺産分割協議の内容が、同じでなければならない、と言う点です。
成立した遺産分割協議の内容を各相続人が証明すると言う趣旨で作成される書類ですので、当然と言えば当然です。
しかし、弁護士が監修した、とあるサイトに、このような記述があったのです。
自分の取得した財産だけを記述する方式は、相続人ごとに内容が変わるので、作成に多少の手間がかかります。
以下に見本を示しますので、参考にしてください。
遺産相続ガイドより引用 https://isansouzoku-guide.jp/isanbunkatukyogisyoumeisyo
このような、記載されている内容が異なる遺産分割証明書を作成した場合、事実上、相続手続きを行う事は出来ません。
その理由を解説します。
① 相続登記の場合
不動産の相続手続き(相続登記)の場合、
(登研170号100頁)
② 預貯金の場合
預貯金の場合は各銀行の内部規則によると思いますが、そもそも遺産分割証明書や銀行が用意している書類(相続手続き依頼書等)に、相続人全員の署名・実印押印が求められています。
この趣旨から考えても、記載内容が異なる遺産分割証明書では、預貯金の相続手続きは出来ないと考えるべきです。
4.まとめ
以上、遺産分割証明書の作成時の注意点をお話ししました。
重要なのは、例え弁護士が監修していたとしても、インターネット上の情報はそのまま信用しない、と言う事です。
もしそのまま情報を鵜呑みにして相続手続きで問題が起きた場合、回復不可能な損害が生じる事もあります。
相続手続きは法律上の権利を確定させる重要な手続きです。
少しでもご不明点がある場合、必ず専門家にご相談するようにして下さい。