相続が進まない場合。遺産分割調停以外の解決方法を考えてみる

相続トラブル事例

こんにちは。司法書士の甲斐です。

今回の記事は、どうしても遺産分割調停を行いたくない方向けの記事です。

【事例】

Q:相続手続きが進まなくて困っています。

数ヶ月前に父が亡くなり、相続手続きを行う必要があるのですが、兄が面倒がって相続手続きや話し合いを先延ばしにしている状況です。

相続財産は相続税の非課税の枠内ですので、急ぐ必要はないのかもしれません。

そんなにもめているわけではないのですが、私としては早くスッキリさせたいと思っています。

その為、弁護士を間に入れて私の本気度を見せて、相続手続きを早くしたいと思うのですが、これはやりすぎでしょうか?

A:兄弟間の仲にもよりますが、事例の場合であれば通常はやりすぎのケースでしょう。

弁護士を代理人にする事で、お兄様は「ケンカを売られた」と思い、良い気持ちにはならないと思います。

お兄様は「面倒がっている」との事ですが、おそらく相続手続きや相続の話し合いの方法、相続手続きを行わなかった場合のデメリットを理解されておらず、「まぁ、なんとかなるのでは?」と思われて面倒がっている可能性があります。

また、そもそも家族の間で財産の事を話したくはないと思っているかもしれません(いわゆる「お金の事を考えるのは悪い事」と言ったお話です)。

どちらにしても相続手続きが進まない事はデメリットだらけですので、面倒がっている相続人に面倒くさがらず、やる気になってもらう必要があります。

今回はその方法について、お話していきたいと思います。

1.相続手続きが進まない時にやってはいけない事

まず面倒がっている相続人に協力してもらうお話の前に重要な事をお話したいと思います。

それは、事例のように相続人間で特にもめているわけではないけど相続手続きが進んでいない場合に、やってはいけない事は何なのか?と言う事です。

それはずばり、「法律上の主張を行う事」です。

例えば、突然寄与分や特別受益の話をして自己の相続分を要求したり、事例のように弁護士を間に入れたり、遺産分割調停の申立を行ったり、審判をおこなったりする事です。

「協力してくれないのだから仕方ないでしょ?」と思われるかもしれませんが、特にもめてはいない状況で法律上の主張を行ったら、相手としても良い気はしないと思います。

「そんな事は分かっているんだよ!」とさらに心を閉ざしてしまう可能性があります。

世の中には「協力しない方が悪い!私は絶対に悪くない!!」と思っても、解決しない事は多々あるのです。

理屈では分かっているけど、心が納得しない。

あなたにもそのような経験はありませんか?

主張と言うのはタイミングを考えて行う事により、効果があるものです。

どんなに法律上正しい主張であっても、タイミング次第では的外れになる事だってあるのです。

2.相続手続きが進まない場合の解決方法

相続手続きが進まない場合の解決方法は、ずばり「代わりにできる事は代わりにやってあげる事」です。

相続手続きを面倒くさがっている相続人にも、面倒くさがっている何らかの理由があると思います。

取りあえず戸籍謄本の取得や、遺産の調査、銀行への連絡等、相続人であれば誰でもできる事は代わりにやってあげる事で、相続手続きを進める事ができます。

ただし、遺産の分け方を決める、「遺産分割協議」だけは相続人全員で行う必要があります。

その為、遺産分割協議の事前準備は他の相続人が行い、後は遺産の分け方だけを話し合えば良い状況にすれば、相続手続きを進める事ができるでしょう。

3.相続手続きを行わないデメリット

もう一つの解決方法は、相続手続きを行わないデメリットを分かりやすく説明して、相続手続きに協力してもらう事です。

相続手続きを先延ばしにするデメリットは以下のとおりです。

① 相続税の申告が手間になる

相続税の申告・納税が必要な場合、その期限は被相続人が亡くなった翌日から十ヶ月以内に行う必要があるのですが、遺産分割協議がまとまらない場合、一度法定相続分で相続した事にして、申告する必要があります。

その後、遺産分割協議が成立したら、その申告を修正する必要があり、結局二度手間になってしまいます。

② 相続人がねずみ算式に増える事があり、事実上相続手続きが不可能になる

相続人が仮に亡くなった場合、その相続人がその地位を引き継ぐのですが(この相続人の事を「代襲相続人」と言います。)、相続手続きを先延ばしにしていると、当時の相続人が亡くなり、代襲相続人がどんどん増えていく事になります。

その結果、代襲相続人がそもそもどこにいるのかが分からなくなったり、全く相続手続きに協力をしなくなったりと言う状況が発生して、事実上相続手続きができなくなります。

相続手続きを先延ばしにすると、想像以上に苦労する事になりますので、この点もしっかりと伝えて、面倒くさがっている相続人に協力してもらう必要があります。

4.人が「面倒くさい」と思う時の心理とその解決方法

以上、他の相続人が代わりに相続手続きを行う事で、問題は解決するのですが、とは言っても、相続手続きを面倒くさがっている相続人がプライドが高い性格だったりすると、代わりに相続手続きを行う事で、かえって関係性が悪化する可能性があります。

その為、そもそも人はなぜ面倒くさいと思うのか?と言う心理についても知っておく必要があり、その人の状況にあわせて適切なコミュニケーションをとる事が重要となってきます。

まず人が「面倒くさい」と思う心理には二種類あります。一つは「できるのにやらない」心理、もう一つは「できないからやらない」心理です。

① 相続手続きが「できるのにやらない」

「よし、やろう!」と思って取り組めば、少しの努力と労力で終わるのに、面倒くさくてやる気が起きないというパターンです。

簡単に言ってしまえば、人は「やりたくない」と思っている事をしようとしている時に「面倒くさい」と感じるのです。

つまり、「なぜやりたくないと思っているのか?」がやらない理由になります。

例えば、会社で仕事を行っている時に、自分の専門分野ではない仕事を上司からお願いされたらどうでしょうか?

仕事を完成させるまでに、調べ物を沢山しなくてはいけない状況になって、手間と時間が非常にかかる場合です。

主婦の方であれば、掃除を洗濯もしなくてはいけない時に、近所のあまり親しくない主婦の方にランチに誘われた事を想像してみましょう。

断りたいのですが、近所の人間関係上、断れない場合です。

このように、自分の意志とは違う事をしなくてはいけない時、「面倒くさいなぁ。」と私達は思うのです。

このパターンの解決方法は、主体的に相続手続きに取り組むようにする事です。

相続手続きを自分がやりたくないと思っていて「面倒くさい」と感じているのですから、「自分がやりたいからする、自分の意志でする」と言ったように、主体的に取り組む事で相続手続きを進める事が出来ます。

また、そもそも全ての手続きをお一人で行う必要はなく、戸籍を集めるのは長男、相続財産を調べるのは次男、と言ったように役割分断をすると、その負担が軽減されます。

相続手続きは人が一生の内にそう何度も行う手続きではない為、ほとんどの方が初心者です。

その為、色々な書籍等で勉強して行う必要があります。

きちんと勉強をすれば、基本的な相続手続きは行う事ができるのですが、いちいち勉強をする事が大変。

だから面倒くさい、と言う流れになるのです。

でも、今まで経験しなかった、相続と言う法律に関連した新しい知識を身につける事ができる、と言う考え方もできるのではないでしょうか?

新しい知識を身につける=相続手続きを行う意味を見つける事により面倒くささも減って、相続手続きについて主体的に取り組みやすくなるでしょう。

② 相続手続きが「できないからやらない」

このパターンは二つに分かれます。

一つは、勉強をしても相続手続きを行う能力がなく、その為、できないからやらないと言うパターンです。人には得意不得手がありますので、きちんと勉強をした上で分からないのであれば、相続手続きを他の相続人に任せるか、若しくは我々司法書士のような専門家に依頼する事で解決します。

問題は次のパターンです。「相続手続きを行うのであれば、法律に則ってきちんとやりたい。

でもその為には相続財産をきちんと漏れなく調べて、遺産を適切に評価して・・・」と、相続手続きと言う一つの事を行うのにしなくてはいけない事が沢山あると、「全部するのは無理。だったら面倒くさいからやめよう」と言う考え方になるパターンです。

このパターンの方は、物事を0か10かで見る、いわゆる完璧主義者の方に多い傾向にあります。

完璧主義者の物事の基準は、完璧にするかしないかの2択しかありません。

その為、完璧に出来ないのであれば面倒くさいからやらない、と言う考え方になるのです。このような性格の方は、例え他の相続人が相続手続きを行ったとしても、それに対して色々と意見を述べてくる事があります。

その意見を否定するのではなく、しっかりと聴く事がもめない相続への近道になります。

この完璧主義者に対する解決方法は、「完璧な人間なんていない」と理解してもらう事です。

人は不完全である事が当たり前であり、だからこそ色々な事を経験したり、学んだりする生き物である事を理解してもらう事で、相続手続きを進める事ができます。

5.まとめ

相続手続きが進まない場合や非協力的な相続人がいる場合、真っ先に思い浮かぶのが裁判所を利用する手続である遺産分割調停等ですが、時間もかかり、希望通りの結果にならない事もあります。

まずは相続人間の話し合いで解決を図り、遺産分割調停等は最後の手段としておく方が無難です。

なお、相続人間で建設的な話し合う為に必要なポイントを知りたい方はこちらをご覧下さい。

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文責:この記事を書いた専門家
司法書士 甲斐智也

◆司法書士で元俳優。某球団マスコットの中の経験あり。
◆2級FP技能士・心理カウンセラーの資格もあり「もめない相続」を目指す。
◆「相続対策は法律以外にも、老後資金や感情も考慮する必要がある!」がポリシー。
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