こんにちは。司法書士の甲斐です。
今回の記事は、子供の時に行われた遺産分割協議についてご相談されたい方向けの記事です。
(なおご紹介する事例は、良くあるご相談を参考にした創作です。)
【事例】
Q:10年以上前に父が亡くなりました。
当時私は中学生でした。その時に母から「お父さんの遺産はあなたが成人した時に渡す」と言われ、私は納得した事を覚えています。
それから5年後、母は再婚し、再婚相手には3人の子どもがいた為、家族は急に増えて6人になりました。
その後私は成人したのですが、実はネイルサロンを開業しようと思い、開業費用をどうしようかと悩んでいた時に、たまたま父が残してくれた遺産の事を思い出しました。
そこで母に父の遺産の事を話したのですが、話をはぐらかされてばかりで今も父の遺産を貰えないままです。
ネイルサロンは子供の時からの夢だったので、何とか母から父の遺産を貰いたいのですが、何か良い方法はありますでしょうか?
A:事例の場合、そもそも遺産分割協議の成立が不完全ですので、まずは遺産分割協議を行う必要があります。
1.相続人の中に未成年者がいる場合
遺産分割協議は相続人間で遺産の帰属を決める話し合いですが、相続人の中に親権を行使する親とその子がいる場合、親と子の利害が対立する関係にある為、子のために特別代理人の選任が必要です(民法第826条)。
事例では、おそらく特別代理人の選任はされなかった様子ですので、子どもの時に行われた遺産分割協議を追認(欠陥のある不完全な法律行為を後から完全に有効なものとする為の意思表示)するか、当時の遺産分割協議を取り消す必要があります(民法第5条2項)。
① 追認を選択した場合
追認を行った場合の法的な意味合いは、
⑵ 相談者が成人した事を条件とする贈与契約が母と子の間で成立した。
と見る事ができます。
一見、相談者にとっては何も問題がないように見せますが、口頭での贈与はいつでも取り消す事ができますので(民法第550条)、きちんと遺産を取得する為には追認はしない方が良いと思います。
② 当時の遺産分割協議を取り消した場合
当時の遺産分割協議を取り消した場合、母と子で遺産分割協議をやり直す事になります。
法定相続分はそれぞれ2分の1ですので、これをもとに協議を行う事になります。
なお、あくまで実の父親の遺産ですので、再婚相手の子供の3人には権利はありません。
2.遺産を使い込まれていた場合
万が一、母の法定相続分を超えて遺産を使い込まれていた場合は、不当利得返還請求や不法行為による損害賠償請求を行う事ができます。
(ただし、母にお金が無ければ裁判を行っても被害を回復する事は難しいでしょう。)
3.まとめ
子供の時に父親、もしくは母親が亡くなった場合、遺産分割協議が曖昧なままになっている事が事実上良くあります。
子供の頃の遺産分割協議に少しでも疑問がある場合は、相続人間で当時の内容をきちんと確認する事をお勧めします。