【事例】
Q:私は今年90歳になる父を自宅に引き取って介護を行っています。
成年後見制度等は特に利用をしておらず、また、私の兄弟達は父の世話を一切行ってくれません。
その為、預貯金等の管理を含め、父の世話は私が一切行っている状態です。
最近、父の健康状態が悪くなり、父の死が近くなってきている事を感じているのですが、その事を知った兄弟達が私に対して、通帳等、父の財産を見せるように言ってきています。
今まで父の面倒を看ていないにも関わらず通帳を見せろと言ってきたと言う事は、兄弟達の目当てはあきらかに父の遺産あり、私は納得がいきません。
その為、たとえ父が亡くなったとしても遺産を開示したくはないのですが、それでも良いでしょうか?
A:仮にお父様が亡くなった場合、遺産分割協議を行う前提で正確な遺産の状況を確認しなくてはいけませんので、遺産の開示はすべきです。
なお、仮にあなたが遺産の開示を拒んだとしても、遺産の調査の方法は沢山ありますので、遺産の開示を拒んだとしてもあまり意味はありません。
その為、遺産の開示を拒むのではなく、寄与分の主張をしていくべきです。
1.他の相続人が遺産の調査を行う事が出来る法的根拠
被相続人が亡くなり相続が発生すると、相続人は被相続人の財産や権利義務を引き継ぎ、相続人が複数いると遺産は共有状態になります(民法第896条、899条)。
このように遺産に関する権利は共有状態になるのが原則です。
その為、たとえば被相続人口座の残高証明書の発行請求も相続人全員で行う必要があるのか、もしくは相続人の一人だけでも行う事が出来るのかが争われていた時代もありましたが、現在は最高裁判例により相続人の内の一人からでも残高証明書の請求が出来るようになりました(最判平成21.1.22)。
その為、あなたが通帳等の開示を他の相続人に行わなかったとても、他の相続人は単独で預貯金の調査を行う事が可能です。
2.遺産の調査方法
① 預貯金
被相続人が取引している銀行が判明している場合、被相続人が亡くなった事と、残高証明書を発行する人が相続人である事が分かる戸籍謄本等を銀行に提示する事で、残高証明書の発行の請求を行う事が可能です。
なお、事例のように相続人の一人が通帳を管理しており、そもそもどこの銀行に被相続人の口座があるか分からない場合でも、銀行1社1社に対し、ローラ作戦的に被相続人の口座があるのか等の調査は行う事は可能です(非常に時間はかかりますが)。
また遺産分割調停や審判において、遺産の開示を求める事も可能です。
その為、事例のように通帳を開示しない事について、ハッキリ言ってしまえば意味はありません。いつかは分かってしまうのです。
② 不動産
自宅に関しては住所さえ分かっていれば、そこから土地に関しては地番、建物に関しては家屋番号が判明し、特定する事が可能です。
また、被相続人が自宅以外に不動産を所有していた場合、市区役所で名寄帳を取得する事により、被相続人が所有していた不動産を把握する事が可能です。
3.まとめ
このように遺産を開示しない、もしくは隠したとしてもハッキリ言ってしまえば意味はありません。それどころか相続手続きが進行せず、ご自身にも不利益を受ける事があります。
ご自身の生活を犠牲にしご両親の介護をなさっているのであれば、遺産を開示しないのではなく、寄与分の主張を行い、法律上適切な手順を踏みましょう。