遺留分放棄の方法を具体例を交えて解説します

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こんにちは。司法書士の甲斐です。

本来、自分の財産をどのように処分しても自由であり、遺言で自分の財産を誰に相続させても当然自由なはずです。

しかし、相続ではこの原則の例外、「遺留分」と言うのがあります。

遺留分は兄弟姉妹以外の相続人が持っている最低相続分なのですが、この遺留分を巡って相続トラブルになる事がしばしばあります。

その為、「家族と話し合い、父(母)の生前に遺留分を放棄したい」と言うご相談を受ける事があります。

似たような制度で「相続放棄」があり、両方とも家庭裁判所を利用する手続きと言う点は同じなのですが、遺留分放棄は被相続人の生前に行う手続きと言う違いがあります。

この遺留分放棄は上手く活用すればもめない相続の実現を可能とするのですが、家庭裁判所を利用する手続きですので、きちんと内容を理解しないと失敗する原因になります。

今回は、この遺留分放棄について分かりやすくお話したいと思います。

1.遺留分放棄の許可の申立て

被相続人の生前に遺留分を放棄するには、家庭裁判所への申立てが必要です(民法第1043条)

第1043条

1.相続の開始前における遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り、その効力を生ずる。

2.共同相続人の一人のした遺留分の放棄は、他の各共同相続人の遺留分に影響を及ぼさない。

遺留分放棄は家庭裁判所の許可を受けない限り効力が生じません。

遺留分と言う「権利」を失う事になりますので、それなりに厳格な手続きとなっています。

具体的には申立書と添付書面を管轄の家庭裁判所(被相続人の住所地の家庭裁判所)に提出する事で手続きが進みます。

詳しい手続きの内容や添付書類等は裁判所のHPにてご確認下さい。

遺留分放棄の許可 | 裁判所
裁判所のホームページです。裁判例情報、司法統計、裁判手続などに関する情報を掲載しています。

2.申立書の具体的な記載方法

さて、ここからが本題です。

遺留分放棄を認めるか否かは家庭裁判所が判断するのですが、その判断基準は、

・遺留分権利者の自由意志によるものであること。
・遺留分放棄について合理的な理由があること。
が中心になってきます。
自由意志によるものなので、被相続人から強制された場合はNGです。
また、合理的な理由とは例えば遺留分を放棄する代わりに生前贈与等の代償を得ている等、遺留分権利者の権利を不当に侵害していない等の事情が必要になってきます。
裁判所のHPの申立書記載例もこの点を踏まえています。

1 申立人は、被相続人の長男です。
2 申立人は、以前、自宅を購入するに際し、被相続人から多額の資金援助をしてもらいました。 また、会社員として稼働しており、相当の収入があり、生活は安定しています。
3 このような事情から、申立人は、被相続人の遺産を相続する意思がなく、相続開始前において遺留分を放棄したいと考えますので、申立ての趣旨のとおりの審判を求めます。

こんな感じです(裁判所HP、遺留分放棄の許可の申立書記載例より)。

その他、許可が認められる可能性がある例としては、

・農地等、特定の家産を特定の相続人に集中させ、代々家産として維持していこうという意図がある場合。

・生前贈与等の代償はないが、浪費・遊興等で被相続人に多大の迷惑をかけ、実質的に廃除と同じような事情がある場合。

等が上げられます。

その他、審判例としては下記があります。

代償を受けていない場合でも、両親の離婚後、被相続人とは親子の交流がなく、かつ互いに相手の相続についての遺留分を放棄したケースで、放棄が両親間の財産の紛争について迅速な解決の一因となったことも考慮して、不合理ではないとした許可例。
(東京高決平15.7.2)

このように、遺留分放棄について合理的な理由があることについて、申立書の中でしっかりと説明を行う事が必要になり、それが不十分であれば許可が出る事は難しいでしょう。

なお、申立てを行った後の手続きとして、相続放棄と同じような照会書が送られてくるのでそれに適切に回答して返信する必要があります。

なお、場合によっては家庭裁判所へ出向き裁判官等から質問を受ける(審問)が行われる事があります。

3.まとめ

このように遺留分放棄は申立書の作成に手間がかかり、相続放棄と同様に失敗したらその後のリカバリーが非常に困難です。

家庭裁判所の判断基準や審判例等の本質的な部分を学ばず、インターネットや書籍の情報をつまみ食いして申立書を作成するのは非常にリスクが高い行為になります。

遺留分放棄をお考えの場合、弁護士、司法書士へのご相談をお勧めします。

文責:この記事を書いた専門家
司法書士 甲斐智也

◆司法書士で元俳優。某球団マスコットの中の経験あり。
◆2級FP技能士・心理カウンセラーの資格もあり「もめない相続」を目指す。
◆「相続対策は法律以外にも、老後資金や感情も考慮する必要がある!」がポリシー。
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