遺留分は事前(生前)に放棄できる相続手続きか?

こんにちは。横浜市泉区の相続専門司法書士の甲斐です。今回の記事は、ある相続人の遺留分の放棄についてご相談されたい方向けの記事です。(なおご紹介する事例は、良くあるご相談を参考にした創作です。)

【事例】
Q:私は今年80歳になりました。財産と言えるものは自宅しかない為、私が亡くなった後も、妻が安心して自宅に暮らせるように、自宅は妻に相続させる旨の遺言を書こうと思っています。

しかし、私には妻の他、3人の子ども達がおり、唯一の財産の自宅を妻に相続させた場合、子ども達から遺留分を請求されないか心配になっています。特に親子間で仲が悪い訳ではないのですが、それでも子ども達の権利ですので、遺留分を主張された場合、妻に迷惑がかかってしまいます。

その為、子ども達に事前に遺留分を放棄させたいのですが、それは法律上可能でしょうか?

A:遺留分の放棄は法律上可能ですが、事実上困難を伴います。

 

1.遺留分とは?

① 遺留分の内容

ご自分の財産は自由に処分できるのが大原則です。例えば遺言によってどこかの慈善団体に財産全額を寄付する事も可能です。しかし、遺産の全ての処分が許されると、被相続人の財産に依存していた相続人は路頭に迷うかも知れません。そのような事を防ぐ為に、兄弟姉妹以外の相続人に、最低限認められた相続分が規定されており、それを「遺留分」と呼んでいます。

② 遺留分の算出方法

遺留分に関して、民法では遺留分権利者全体に残されるべき遺産全体に対する割合として定められています。(民法第1028条)具体的には、

・直系尊属(父母や祖父母等)のみが相続人である場合
被相続人の財産の3分の1(民法第1028条第1項)

・上記以外の場合被相続人の財産の2分の1(民法第1028条第2項)となります。

後はこの遺留分割合に、実際の法定相続分をかけて、個別の遺留分割合を算出します。

(具体例)

夫が亡くなり、相続人は妻と長男、次男、三男の場合、それぞれの遺留分割合は、

妻:1/2(法定相続分)×1/2(総体的遺留分)=1/4(個別的遺留分)

長男、次男、三男:
1/2×1/3(法定相続分)×1/2(総体的遺留分)=1/12(個別的遺留分)

遺留分に関しましてはこちらもご参照下さい。
遺留分と遺留分減殺請求

 

2.遺留分を事前に放棄できるか?

事例では、財産と言えるものは自宅のみであり、これを配偶者に相続させる事で、他の相続人から遺留分を主張される事を危惧されています(実際に家族間の仲が良好でも、いざ相続が開始されると、遺留分等でもめる事が良くあります)。

その為、自己の相続に関して、推定相続人である子ども達に事前に遺留分を放棄させる事が出来れば、配偶者に何の迷惑をかけずにすむのですが、果たして、そのような事は可能なのでしょうか?

結論を申し上げますと、遺留分の放棄は可能です。ただし、家庭裁判所の許可を受けなければ、その効力は生じません(民法第1043条)。

 

3.なぜ、家庭裁判所の許可が必要か?

これは上述したとおり、遺留分は相続人に最低限の生活を維持させる為の国家的施策の意味合いがあるからです。

そして、家庭裁判所が遺留分放棄の許可を出す判断基準として、
⑴ 遺留分の放棄が本人の自由意志に基づくものであること
⑵ 遺留分放棄に合理的な理由と必要性があること
⑶ 代償性があること(特別受益分があるか、放棄と引き換えに現金をもらうなどの代償があるなど)
等があり、事実上、許可が降りるのは非常に難しくなっています。

また、遺留分放棄の意思表示は、あくまで遺留分権利者である、推定相続人に行ってもらう必要があります。推定相続人の立場に立つとどうでしょうか?「最低限の相続権である遺留分を放棄してくれ」と言われて、素直に放棄してくれるでしょうか?感情的にしこりが残るのではないでしょうか?この意味でも遺留分の事前の放棄は、事実上難しいのです。

良く相続の専門家を名乗る者が、遺留分の放棄は簡単である事を述べている場合がありますが、それは実務を知らない人間の、全くのデタラメだと思って下さい。実務上、遺留分の事前の放棄は出来ない事はありませんが、かなりの困難を伴うものなのです。

 

4.相続放棄は事前に出来るか?

それでは、相続放棄は事前(生前)に出来るかどうか?と言った疑問が出てくるかも知れませんが、相続放棄は事前に行う事はできません。相続放棄は文字通り、相続が発生してから行う手続きである事がその理由です(民法第915条)。

その為、推定相続人から事前に「相続を放棄する」等と言った念書等を取ったとしても、その念書等は無効となります。

 

5.まとめ

以上、推定相続人が遺留分を放棄する事について同意しているのであれば問題は無いのですが、現実問題として、同意する事は少ないと思われますので、遺留分の放棄は事実上、非常に難しいと言えます。

また、「遺留分を放棄する」「相続を放棄する」念書等を事前に貰っていても、その念書等は法的には全く無意味なものです。中には「心理的なプレッシャーを与える事ができる」等、解説している人がいますが、その意味が無い事は今までの解説でご理解頂けると思います。

どうしても特定の相続人に遺留分を放棄してほしいのであれば、その理由をしっかりと説明し、同意を得る事です。あなたが遺留分を放棄してほしいと思っている推定相続人も、一人の人間であり、感情があるのです。無意味な法律テクニックに頼る事なく、誠心誠意説明をしてみては如何でしょうか?

なお、どうしても遺留分を放棄してもらえない場合、遺留分に相当する生命保険に加入して、遺留分を主張された時の為に備えると言う方法もあります。遺留分に関するご不明点等ございましたら、お気軽に当事務所にお問い合わせ下さい。

 

 

【このブログの著者】

甲斐 智也(かい ともや)
司法書士/上級心理カウンセラー

合格率2~3%台の司法書士試験を、4年間の独学を経て合格。

心理カウンセリングの技術を応用して、もめない相続の実現を目指す専門家。

不動産や銀行預金等の相続手続きの他、心理カウンセラーが行う心理療法であり心理学のひとつ、「交流分析」をベースにして、法律と感情面の双方から、相続人間のコミュニケーションが円滑になる為の多角的なサポートを行っている。

元俳優。アクションが得意でTVドラマ出演やヒーローショーの経験もあり。

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