
こんにちは。司法書士の甲斐です。
最近、様々な所で遺言に関する相談会やセミナーが開催されており、実際に遺言を作成する方も多くなっております。
その遺言の中で、遺言執行者として相続人の内の一人、若しくは相続人ではない親族の方を指定するケースも増加しております。
被相続人から事前に話を聞いていれば良いのですが、突然遺言で遺言執行者として選任された場合は少し困るでしょう。
そもそも何をすれば良いのかを一から勉強しなくてはならず、非常に苦労されたお話を実際に遺言執行者となった方からお話をお伺いする事もあります。
本日は、その遺言執行者の職務について解説していきたいと思います。
1.遺言執行者について
① 遺言執行者とは?
遺言執行者とは、遺言の内容を実現することを職務として遺言により指定、もしくは家庭裁判所より選任された者です。
未成年者及び破産者以外は誰でもなる事ができます。
(法人もなれます。また、遺言によって相続財産を承継する者=受遺者も遺言執行者になる事ができます。)
なお、遺言執行者がその権限内において、遺言執行者であることを示して行った行為は、相続人に対して直接その効力が生じます(民法第1015条)。
② 遺言執行者の職務権限
「遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。」(民法1012条1項)とされています。
「遺言の執行に必要な一切の行為」と言う規定が非常に包括的ですが、具体例としては下記の行為が挙げられます。
⑵ 遺言執行が妨害されている場合における妨害排除行為。
⑶ 遺言執行に必要な訴訟行為
⑷ 相続財産の売却、換価等の処分行為。
なお、遺言執行者がいる場合、相続人は相続財産を勝手に処分したり、その他遺言執行の妨害に当たるような行為はできません(民法1013条)。
例えば、相続人が遺言の対象となっている不動産の売却や抵当権の設定等の処分行為を行った場合、遺言執行者は速やかにこれに対応する必要があります。
2.遺言執行の準備
遺言を執行する前段階として、以下の事を行う必要があります。
① 遺言執行者として仕事を行うか決める
実は、あなたが遺言者から遺言執行者として指定されたとしても、絶対に遺言執行を行う必要はなく、その仕事を断る事が可能となっています。
(遺言執行者の任務の開始)民法第1007条遺言執行者が就職を承諾したときは、直ちにその任務を行わなければならない。
このように、「遺言執行者が就職を承諾したときは・・・」とあるように、遺言執行者として指定されたとしても、「就職を拒否する事」も出来るのです。
その為、まずは遺言の内容や相続人の状況を確認し、遺言執行者として職務を行うか否かを検討する必要があります。
なお、遺言執行者を異なった場合でも、家庭裁判所に対して新たな遺言執行者を選任してもらう事は可能です。
② 検認(自筆証書遺言の場合)
あなたが遺言執行者として職務を行う事を決めた場合、まずは遺言の状況を確認し、検認の申立を行います。
検認とは、遺言書の形状、加除訂正の状態、日付、署名などの検認の日現在における遺言書の内容を明確にして、遺言書の偽造・変造を防止する為の手続きです。
なお、後述のとおり、自筆証書遺言が民法の規定に照らし合わせて無効でも、検認申立ては必ず行うようにして下さい。
弁護士・司法書士でも「無効な自筆証書遺言の検認は必要ない」と言う者がいますが、例え民法上無効な遺言であっても、死因贈与契約書面(遺言者が死亡した時に特定の財産を特定の人に贈与する契約)として有効になったり、持ち戻し免除の意思表示書面(特別受益)となる事があります。
上記のような理由がある為、無効な遺言であっても、検認申立を行い証拠保全を行う十分な理由があるのです。
③ 遺言の有効性を確認する
形式的要件の確認
自筆証書遺言は、遺言者がその全文、日付及び氏名を自書(手書き)して、これに印鑑を押さなければ無効となります(民法968条)。
全部の手書きが必要となりますので、例えば別紙として財産目録をパソコンで作成した自筆証書遺言は無効となります。
※平成31年1月13日より、財産目録に関しては自筆しなくても良い事になりました。
実質的要件の確認
遺言が形式的に有効であったとしても、遺言者が遺言を行った際に認知症等で意思能力が無かった場合は無効になります。
その為、相続人やその他関係者から遺言書が遺言を残した当時の状況を聞き取り、遺言が実質的に有効である事も確認する必要があります。
④ 遺言の文言の解釈を行う
特に自筆証書遺言の場合、その文言から遺言者の意図が不明確な場合があります。
例えば、「相続させる」「取得させる」は分かりやすいですが、「任せる」「お願いする」はどうでしょうか?
また、遺言に書かれた遺産についても判断に悩む事があります。
例えば、「現金1,000万円を相続させる」と遺言に表記されていた場合で、遺言者が亡くなった時の現金が500万円しかなかった、しかし銀行預金が5,000万円あった場合です。
この場合、あくまで現存する現金を用意すれば良いのか、それとも足りない現金について、預金を引き出して用意する必要があるのかを検討する必要があります。
このように、遺言執行者は場合によっては遺言の趣旨を解釈する必要が出てくるのですが、その方法としては判例上、その文言のみにとらわれる事なく、遺言書全体を見渡し、他の遺言文言との整合性を検討する必要があります。
⑤ 抵触する遺言が存在するか確認
平成元年以後の公正証書遺言に関しましては、日本公証人連合会に遺言検索システムがありますので、これを利用する事で、その他の遺言の存在を確認する事ができます。
なお、抵触する遺言が存在した場合、抵触する部分について、後に作成された遺言で前に作成された遺言を撤回したものとみなされます(民法1023条1項)
⑥ 遺言者が生前に遺言に抵触する行為を行ったか確認
上記③と同様の趣旨です。
遺言を作成後、遺言者が遺言に抵触する行為(例えば、遺言の対象とした不動産を売却した場合等)その抵触する部分について、遺言を撤回したものとみなされます(民法1023条2項)。
⑦ 遺言の内容の通知
遺言執行者は、その任務を開始したときは、遺言の内容を相続人に通知する必要があります(民法第1007条第2項)。
その為、被相続人の前配偶者との子供等と言った、相続が発生した事をあまり知らせたくない人に知らせる必要があるので注意が必要です。
⑧ 相続財産目録の作成
遺言執行者は、就任後遅滞なく相続財産目録を作成して、相続人に交付しなければなりません(民法1011条)
3.遺言の執行
① 不動産の登記
「相続させる」遺言の場合
特定の不動産を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言の場合、遺言者の死亡時からその特定の相続人が対象の不動産を相続する事になります。
その為、遺言執行者が関与する事なく、その相続人が遺言書及びその他の添付書類(被相続人の死亡の記載がある戸籍謄本、権利証、遺言執行者の印鑑証明書等)を揃えて、単独で登記を申請する事が出来ます。
上記以外の場合
「遺贈する」と言う文言であったり、そもそも相続人ではない者に不動産を取得させる場合、遺言執行者と不動産を譲り受ける者の両名から登記を申請する必要があります。
なお、良くある問題として、遺言書内の不動産の特定に不備があるケースがあります。(「自宅」を○○に遺贈する、等)
このようなケースでは、相続人全員の上申書(遺言書に記載されている「自宅」とは所在○○地番○○~の不動産に相違ありません、と趣旨の内容が記載された書面)を提出する事で、登記申請が受理される事がありますが、事前に管轄法務局と相談される事をお勧めします。
② 動産の引渡し
不動産以外の財産である動産(宝石、貴金属等)の執行は、引渡しをする事で完了します。
③ 預貯金の払戻し(解約手続き)
遺言の内容(遺言者の意思)に則して、解約払戻しを行います。
必要書類は各金融機関で違う場合がありますので、事前にお問い合わせをして下さい。
④ 株式の執行
株式の名義変更を行います。非上場株式と上場株式で手続きが変わってきますので、まず、対象の株式がどちらかを確認して下さい。 具体的な手続き方法はこちらをご参照下さい。

4.まとめ
上記に記載した内容は、遺言執行者として必要な知識のごく一部であり、場合によっては高度の法的知識を要求される場面もあります。
その為、遺言執行者は弁護士、司法書士と言った専門家をお勧めします。
なお、親族の方で遺言によって遺言執行者に指定されたが、何から手続きを行えば良いか分からないと言ったご相談も承っておりますので、お悩み、お困りの際はお気軽に当事務所へご相談下さい。