法務局における自筆証書遺言の保管制度の注意点

遺言

こんにちは。司法書士の甲斐です。

令和2年7月より自筆証書遺言を法務局で保管する事ができる制度が始まり、それに関連して各メディアもこの件を取り上げています。

例えば、下記のサイトでも『相続改正のメリット、「自筆証書遺言」を国が無料チェックも』と言うタイトルで制度の事を紹介しています。

相続改正のメリット、「自筆証書遺言」を国が無料チェックも | マネーポストWEBマネーポストWEB
 2020年は40年ぶりの相続改正が完全実施される節目の年になる。資産をどう家族に引き継がせるかのルール変更だ。一番変わるのは遺言制度。7月10日から本人が作成した「自筆証書遺言」を法務局に保管しても...

ただし、記事を良く見てみますとニュアンスとしてあまり正確な情報が伝わっておらず、一般の方が勘違いする可能性がある書き方が気になりました。

どう言う事なのか?それは、

法務局での申請が受理されたのだから、遺言書の内容も当然に有効と認められた!」

と勘違いをしてはダメ、言う事です。

何故なら、遺言は形式的にも実質的にも有効である必要があるところ、法務局では遺言の形式面しかチェックされないからです。

1.自筆証書遺言の保管制度の概要

まずは基本的な事をおさらいしましょう。

① 保管できる遺言の種類

法務局で保管する事が出来る遺言書は、いわゆる自筆証書遺言です(財産目録以外の全文、日付、氏名を自筆し、押印する事で成立する遺言。民法第968条)。

また、遺言書を法務局に提出する際は、封がされていない状態で提出する必要があります。

② 取り扱う法務局

遺言書の保管に関する事務は、法務局のうち法務大臣の指定する法務局(これを「遺言書保管所」と言います)において、遺言書保管官として指定された法務事務官が取り扱います。

② 保管する事ができる管轄の法務局

遺言書の保管の申請は、

・遺言者の住所地若しくは本籍地または
・遺言者が所有する不動産の所在地

を管轄する遺言書保管所の遺言書保管官に対して行います。

③ 遺言書の保管の申請方法

遺言書の保管の申請は、遺言者が遺言書保管所に自ら出頭して遺言書と申請書を提出する必要があります。

その際、遺言書保管官は申請人が本人であるかどうかの確認を行います。

2.マネーポストWEB中の「自筆証書遺言を国が無料でチェック」とは?

上記のサイト中で色々と気になる部分があるのですが、特に気になったのが下記の部分です。

弁護士や司法書士に頼むと数十万円かかる遺言書のチェック。専門職である法務局の遺言書保管官が保管を申請する際に、遺言書の日付が記載されていないなど形式上の不備について無料でチェックしてくれる。

これどう言う事かと言いますと、遺言の保管について申請書が提出された場合、その審査が行われる事になります。

そして、申請が不適切な場合に却下されるのですが、その要件の一つとして「民法における自筆証書遺言の形式を満たしていない」と言うのがある為、遺言書保管官が形式面をチェックするのです。

(法務局における遺言書の保管等に関する政令第2条第2号)

確かに国が自筆証書遺言のチェックを行う事になるのですが、それはあくまで審査の過程で行うものです。

本来このような手続きは間違いがない書類を提出する事が前提ですので、法務局のチェックを期待するのは少しニュアンスが違うと思われます。

3.専門家のチェックは形式面だけではありません

さらに、記事内では「弁護士や司法書士に頼むと数十万円かかる遺言書のチェック。」と専門家を引き合いにしていますが、これはミスリードでしょう。

専門家の遺言書チェックは何も形式面だけではなく、実質的な部分にもおよびます。

例えば、

・意思能力の面で問題が無いか?
・また相続手続きで使用する事が出来ない遺言では無いか?
・さらに、遺言者の意思に基づく遺言を作成する事で、他の問題(遺留分等)が発生しないか?
・発生するとすればどのようにカバーするのか?

認知症等で遺言者の意思能力が無ければ遺言は当然無効になります。

また、遺産の記載が不明確な場合、相続手続きが事実上不可能になる事があります。

さらに、相続人間に不公平な遺言を残した場合、その遺言が有効であったとしても、相続人間のわだかまりは残るでしょう。

そのわだかまりを少しでも解消する方法は無いのか?

等、専門家の遺言のチェックは形式面は元より、実質面も問題が無いのかを細かくチェックするのです。

4.まとめ

今後も自筆証書遺言の保管制度について、様々なメディアが取り上げるでしょう。

しかし、法務局で行う審査はあくまで自筆証書遺言の形式的な部分だけです。

その為、「法務局での申請が受理されたのだから、内容も当然に有効と認められた!」と勘違いをしてはダメと言う事です。

この部分を勘違いしてしまえば、実質的な内容が無効な遺言書や相続手続きの各窓口では使用出来ない遺言書が乱立する事になるでしょう。

この辺りの内容は非常に細かくややこしいので各メディアは説明しないはずです。

メディアが話していない事にも注意する必要がありますし、形式面だけでは無く実質的な内容に問題がないかを確認する為には、積極的に専門家を活用した方が良いでしょう。

当事務所でも遺言に関するご相談を行っております。

お気軽にお問い合わせ下さい。

文責:この記事を書いた専門家
司法書士 甲斐智也

◆司法書士で元俳優。某球団マスコットの中の経験あり。
◆2級FP技能士・心理カウンセラーの資格もあり「もめない相続」を目指す。
◆「相続対策は法律以外にも、老後資金や感情も考慮する必要がある!」がポリシー。
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