
最近、「親に遺言を書いてもらいたい!」って思っている人、多いですね。

そうだね。親世代で相続対策の事を熱心に勉強されている人はいるけど、それはまだまだ少数派。多いのは「子供に言われて仕方なく・・・」と言うケースなんだよね。

でも、遺言を実際に書くのは親なので、親に何とかやる気になってもらわなければダメですよね?それって何かテクニック的なものってあるんですか?

うーん、有るには有るんだけど、その前に考えなくちゃいけない事があるんだ。

こんにちは。司法書士の甲斐です。
当事務所に遺言やその他相続対策を一番最初にご相談される方は、子供世代の方が多くなっています。
「自分の親に遺言書を書いてもらいたいんですが、どのように話を持ち掛ければ良いか分からない」
現在、インターネットや書籍等で遺言に関する情報は簡単に入手する事が出来ますが、それでも親世代から見ると「必要ないでしょ?」と言う認識が強い印象を受けます。
その為、子供側から親に遺言を書いてもらう為に、様々なテクニックを使うと言う事があるのですが、上手く行かない事もしばしば。

ウチの親はなんてガンコなんだろう・・・。
と愚痴りたくなる気持ちも分かりますが、ちょっと待って下さい。
親に遺言を書いてもらうテクニック以前に、実は考えるべき事があるんです。
この点は司法書士含む専門家があまり指摘していないのですが、非常に重要なポイントになります。
今回は、親に遺言をかいてもらう方法をお探しのあなたへ、その重要なポイントを中心にしたお話しをしたいと思います。
1.そもそも、親を一人の人間として尊重し、しっかりと向き合っていますか?
「ウチの親は何度言っても遺言書を書いてくれない。ムカつく!!!」
と思う前に考えて下さい。
普通の親であれば、子供から理由とかを丁寧に説明されたら遺言書を書きます。
それなのに何度言っても書かないと言うのは、まず親子間の信頼関係がきちんとあるのかを考えて下さい。
もっと深く突っ込むと、
「あなた自身が親を一人の人間として尊重しているか?しっかりと向き合っているか?」
と言う事です。

「いやいや、この司法書士何言ってんの?信頼関係あるに決まっているでしょ?」と思ったあなた、下記の事項に正確に答えられますか?
・親の交友関係。
・親が心の底から感動する事。
・親が子育てを行っていた時の具体的な苦労。
・親の仕事に対するポリシー。
・親が一番大切にしている考え方、価値観。
・親の価値観が昔と変化した場合、その理由。その変化の過程で何を学んだのか?
これはあくまで一例ですが、どうでしょうか?
正確に答える事は中々難しいと思います。
でも、親に対して一人の人間として向き合うと言うのは、このような内面についても、しっかりと理解すると言う事なんです。
内面をしっかりと理解する=まずはこちらから信頼してあげる、と言う順番で、初めて相手からも信頼してもらえるのです。
遺言書はあくまで本人の自由な意思で作成するものです。
けっして子供のエゴを押し付けてはダメです。

まずは親と本当に信頼関係が築けているのか?一人の人間として尊重、向き合っているのか?を疑問に思って見て下さい。
2.遺言に関する誤解を解く
ご両親が遺言を書く事におっくうになっている場合、遺言に対する誤解があるかもしれません。
もしそのような誤解がある場合、しっかりと説明して誤解を解くようにしましょう。
① 遺言書は遺書ではない事を説明する
これ、非常に多い勘違いです。
「遺言=死の間際に書くもの。今は元気だから必要ないでしょ?」
と言う理屈なのですが、そもそも死の間際に書くものは「遺書」であり、遺言書とは全く別のものです。
遺言はそもそも心も身体も元気なうち、意思能力や判断能力があるうちにしか書く事が出来ません。
つまり、そもそも死の間際で意識が朦朧としている状態であれば、遺言を書くのは大変難しいのです。
『遺書』は死ぬ間際に書く物。
— 司法書士甲斐智也 (@tomoya_kai) December 17, 2019
『遺言書』は元気なウチにしか書けない物。
遺言は元気なうちにしか書けない事をしっかりと伝えていきましょう。
② 将来相続トラブルが起こるかは、実は誰にも分からない
「ウチは家族の仲が良いから相続トラブルになるなんてあり得ない。だから遺言なんて必要ないよ。」
これは本当に良く聞くフレーズなのですが、果たして本当にそうなのでしょうか?
例えば、子供の一人がリストラされ、経済的に困窮してしまう。
今のご時世、その可能性はゼロでありません。
そのような状況で相続が発生した場合、相続でもめる事が簡単に想像できるのではないでしょうか?
将来の事は誰にも分からないのです。
その為、「相続トラブルなんてあり得ない」とは絶対に言いきれないのです。
③ 専門家は必要ない?
どこかのメディアで
「何も問題ないうちは専門家に頼る必要はない。専門家は問題が発生した時に相談すれば十分」
と言う趣旨の事が書かれていました。
一見もっともらしい話しですが、この主張は完全に間違っています。
歯医者を例にしましょう。
普通は歯が痛くなった時に歯医者に行って治療しますよね?
でも、虫歯になりたくない人は、歯が痛くなって初めて歯医者に行ってはいないのです。
虫歯になる前に定期的に、歯医者で歯のチェックをしてもらい、虫歯の予防をしているのです。
遺言もこれと同じです。
特に自筆証書遺言は遺言者本人で作成する事が出来て非常にお手軽な為、一人で全て完結しようとする人がいますが、この考え方は危険です。
遺言は書き方次第によっては、後々無用なトラブルを起こす原因となります。
遺言書作成キットやインターネットの情報を用いてオーダーメイドな相続対策とする為には、基本となる「法律的な物事の考え方」を理解する必要があります。

その「法律的な物事の考え方」を勉強するにはそれなりの時間がかかりますので、この点は遠慮なく専門家を頼って頂きたいのです。
3.親に遺言書を書いてもらう方法
きちんと信頼関係があり、遺言に対する誤解等が無くなってようやく、親に遺言をかいてもらう方法論に進む事が出来ます。
この順番は重要ですので、絶対に自己流ですっ飛ばさないようにして下さい。
では、親に遺言を書いてもらう方法ですが、これだけで良いと思います。
【親任せにするのではなく、子供もちゃんと勉強する】
実際に遺言を作成するのは親ですが、子供も親に丸投げするのでなく、一緒に勉強するようにしましょう。
遺言のセミナーに一緒に行くのも良いですし、司法書士等の専門家に一緒に相談するのも良いです。

二人三脚で取り組む事で、あなたの本気さが親に伝わります。
4.絶対にやってはいけない事
某サイトで、親に遺言を書いてもらう王道テクニックとして、「親を驚かせる」と言うのがありました。
内容は、
「いつまでも若い気持ちでいるために遺言書を書かない親を驚かせ、年をとったことを実感させて遺言書を書かせようとする。」
と言う事をやっている人がいるのでそれを参考にする、と言ったお話しです。
具体的には
・「年を取ったから変な音がする」と親が考えるように仕向けて、実際に変な音を出す。
・知り合いや探偵に依頼し、家の中を覗いてもらい「誰かいる!」と親をビックリさせる。でも子供は「誰もいないよ。」と返答する。
このような行動を行う事で、まだまだ元気と思っていた親が老いを自覚し、素直に遺言を作成する、と言った流れなのですが、こんな事は絶対にやらないで下さい!
このような事は場合によっては犯罪になる可能性もありますし、そもそも親子間の信頼関係が崩壊してしまいます。
この内容の記事が書かれていたのは相続専門のサイトであり、こんな事を平気で書いていた事が非常に恐怖を感じました。
絶対にこのような事はマネをしないで下さい。
5.まとめ

親に遺言を書いてもらうのって、結構大変なんですね。

人間はどうしても「後でいいや」と言う考えが働くので、「今やらなくてはいけない」と言う方向に持っていくのは確かに大変だね。そこは信頼関係を一つ一つ築き上げていくしかないんだ。
親に遺言を書いてもらう方法・テクニック論はインターネットで検索すれば簡単に入手する事が出来ます。
でもそれはあくまでテクニックであり、大切なのは親との信頼関係です。
遺言は自分の死を意識して書くものであり、普通は受け入れがたいものです。
だからこそ、親を一人の人間として正面から向き合い、言いにくい事まで何でも言い合う事が出来て初めて、親も自分の死を意識した遺言を作成する事が出来ると思います。
あなたはどうですか?親を一人の人間として向き合っていますか?
まずはこの事を自問自答する事をお勧めします。
なお、当事務所では残されるご家族が困らない為の遺言に関するご相談を行っております。
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