こんにちは。司法書士の甲斐です。
今回の記事は、納得のいかない遺言の内容についてご相談、ご依頼されたい方向けの記事です。
(なおご紹介する事例は、良くあるご相談を参考にした創作です。)
【事例】
Q.私の父は数日前に亡くなりました。
相続人は私を含めた子どもの三人のみです。
父は手書きの遺言を作成しており、その内容は全財産を三男に相続させる、と言う内容です。
実はこの三男が問題で、三男は大学卒業後、働く能力があるにも関わらず一度も就職する事もなく、20年以上に渡り親のスネをかじってきました。
父も再三再四にわたり三男を注意していたので、この様な遺言を父が残すとは到底考えられません。
また、父は晩年認知症をわずらっていたので、この点からも遺言が父の本心とは思えません。
遺言どおりでは無く、きちんと公平に遺産分割を行う方法はありませんでしょうか?
A.認知症で意思能力が無かった事を立証し、遺言無効確認訴訟を提起する事が考えられます。
その他、遺留分侵害額請求や、相続人全員が合意し、遺言とは異なる遺産分割協議を行う事が考えられます。
1.遺言とは異なる遺産分割協議
被相続人が遺言を残していた場合、遺産の分配方法はその遺言に従うのが原則です。
しかし、相続人全員が合意すれば、遺言とは異なる分配を行っても構いません。
ただし、「相続人全員の合意」が必要な為、事例のようなケースでは三男が合意する事は難しいでしょう。
2.遺留分侵害額請求権
① 遺留分とは?
遺留分とは各相続人が持っている最低限度の相続分です。
遺留分は遺言によっても侵害する事はできない為、事例のような
「全財産を三男に相続させる」
と言う遺言は、まさに他の相続人の遺留分を侵害していますので、遺留分侵害額請求を行う事により、相続分を取得する事ができます。
遺留分は直系尊属(父母や祖父母等、自分より上の世代)のみが法定相続人である場合には、相続財産の3分の1、それ以外の場合には、相続財産の2分の1となり、それぞれ法定相続分をかけて算出します。
事例の場合ですと、3分の1(法定相続分)×2分の1(絶対的遺留分)=6分の1(個別的遺留分)が実際の遺留分の割合になります。
② 遺留分の計算方法
遺留分は相続財産に対する割合です。
まずは遺留分算定の為の基礎財産の価額を計算する必要があります。
・遺留分算定の基礎財産 = 相続開始時において被相続人が有していた積極財産 + 贈与財産の価額 - 相続開始時において被相続人が負っていた相続債務
遺留分算定の基礎財産の価額の計算を行えば、個別的遺留分をかける事で、遺留分額を算出します。
・遺留分額 = 遺留分算定の基礎財産 × 個別的遺留分
※実際には積極財産の評価額を算出する必要がありますので、一般の方が具体的な遺留分額を算出するのは困難を伴う事が多いです。
③ 遺留分侵害額請求の方法
特に法律上の形式はありませんので、裁判外で内容証明郵便等で行っても構いません。
3.遺言無効確認訴訟
遺言が無効になるケースとして、そもそも法定の様式を欠いている場合や、認知症等による遺言無能力者が作成した場合等が挙げられます。
特に認知症等による遺言無効確認訴訟は、自筆証書遺言、公正証書遺言問わずに提起されています。
(意外に感じられるかも知れませんが、公正証書遺言であっても遺言者の意思能力が争われるケースはあります。)
ただし、実際の裁判での立証は非常に難しいのが現状です。
遺言を作成したその日に意思能力が無かった事を立証しなくてはいけないところ、認知症の方は絶対に日常的に意思能力を欠いているわけではありません。
時には意思能力が回復する事だってありますので、
「遺言を作成したその時その瞬間に意思能力を欠いていた」
と言う事実を立証する事は非常に困難である事が容易に想像できると思います。
(ただし、遺言者が実は成年被後見人であった場合は、話が全く違ってきます。成年被後見人が有効な遺言を作成する為には、法定の要件を具備する必要があります)。
4.まとめ
遺言無効確認訴訟は非常に難易度が高く、時間もかかる手続きです。
しかしながらどう考えても遺言の内容に納得がいかず何とかされたい場合もあるでしょう。
そんな時は、弁護士を代理人にして訴訟活動を行ってもらうか、ご自分で裁判を行う場合であれば、司法書士に書類作成を依頼する等、専門家のサポートをきちんと受けて問題を解決する事をお勧めします。