
こんにちは。司法書士の甲斐です。
今回は、別の相続人(もしくは代理人弁護士)から、遺言の無効を主張された場合の対応方法のお話しです。
【事例】
Q:私の父が、先月亡くなりました。
相続人は父の子である私、長男、次男の3人です。
父は遺言書を残しており、その内容は「長男には何も財産を相続させず、私と次男に財産を相続させる」と言う内容です。
私と次男は遺言の内容通り相続手続きを行おうと思ったのですが、長男が遺言の内容に激怒して、弁護士を代理人にし、遺言の無効を主張してきました。
確かに、父は遺言書を作成した当初は認知症と診断されていたのですが、初期中の初期の症状で、言葉によるコミュニケーションは問題無く行う事が出来ました。
このように遺言の無効を主張された場合、一体どうすればよろしいのでしょうか?
1.遺言が無効になる場合とは?
① 形式的な無効
遺言は法律(民法)で、どのように作成すべきかと言った形式面のルールが細かく定められています。
【自筆証書遺言の場合】
・遺言作成者が、その全文、日付、氏名を自書して、押印する事で有効に成立します。
全文の自書が必要なので、一部をワープロ等で作成しても無効です。
※平成31年1月13日より、財産目録に関しては自筆しなくても良い事になりました。
また、自書が必要なので、他人が代わって本人の遺言書を作成しても無効です。
【公正証書遺言の場合】
・証人が2人以上立会い、
・遺言者が公証人に遺言の趣旨を伝え、
・公証人がその遺言の趣旨に従い遺言書を作成し、遺言者本人及び証人に読み聞かせるか、閲覧させ、
・遺言者と証人が、公証人が作成した遺言書の内容が正確である事を確認し、それぞれ署名、押印し、
・公証人が、公正証書遺言の作成の方式に従って作成したものである旨を遺言書に記載し、署名、押印する。
このように、自筆証書遺言、公正証書遺言両方とも、遺言が有効に成立するためのルールがあり、このルールに従っていなければ遺言は無効になります。
② 実質的な無効
さらに、遺言が法律のルール通りに作成されたとしても、無効になる場合があります。
例えば、遺言者が認知症で、遺言の作成当時、必要な意思能力を欠いていたり、相続人の一人に脅されていたり等、遺言者の本当の意思に基づかないで作成された遺言も無効になります。
(なお、正確には遺言者が脅されて遺言をした場合、「無効」ではなく「取り消す」事が出来る遺言になります。)
2.遺言の無効を他の相続人や弁護士から主張された場合に押さえるべきポイント
① 遺言が本当に無効なのか、正確な事実関係を把握する
まずやるべき事は、遺言が本当に無効なのか、事実関係を正確に把握する事です。
形式面の無効は遺言書そのものを確認すれば、客観的に判断する事が出来ると思います。
問題は実質面の無効の話で、良く争いになる「遺言者が当時認知症だったから無効」と主張されたケースです。
その根拠として、
・同様の判例で、遺言が無効と判断された。
と言う事が挙げられてくる場合があります。
しかし、重要なのは、「遺言作成時、遺言者がどうだっか?」と言う事実です。
認知症と言えども、症状には程度があります。
日常生活に支障をきたす事がなく、自分の意思を正確に相手に伝える事ができ、その意味もきちんと理解する事が出来る場合があります。
その為、他の相続人や弁護士から医師の診断表等を提示されても臆する事なく、「遺言作成当時どうだったか?」と言う事実を確認するようにしましょう。
具体的には、自筆証書遺言であれば、遺言者の当時の状況を調べたり、公正証書遺言であれば公証人や証人の方に、当時の状況を細かく聞く事が必要になってきます。
② 遺言が有効であると確信した場合
形式面で問題無く、遺言者の当時の状況を確認し、実質面でも問題がないと確信した場合、遺言書通りに相続手続きを行いましょう。
もしかすると、他の相続人や弁護士から遺言無効の裁判を起こされる可能性がありますが、認知症等を理由とした遺言無効は、そもそも遺言者の意思能力がなかった事を証明する事が非常に難しいのです。
他の相続人や弁護士の主張が認められる可能性が低いため、遺言の内容通りに手続きを行い、もし仮に裁判で遺言無効が認められたら、また別途対応する、と言った方法が考えられます。
③ 遺言が有効であるかの確証が持てない場合
どんなに事実関係を調査しても遺言が有効である事の確証が持てない場合、難しい判断になりますので、弁護士等の専門家にご相談した方が良いでしょう。
3.まとめ
高齢化社会と認知症の問題は切っても切れない関係にあり、また、親と子の経済格差、弁護士人口の増加等から考えて、認知症を理由とした遺言無効の主張は、今後ますます増加すると思います。
今までは「公正証書遺言を作成すれば安心」と言う状況だったかもしれませんが、(あってはいけない事ですが)一方の相続人に都合の良いような事実を作り上げられる可能性も否定できません。
その為、遺言を作成する場合は、「遺言者の真意に基づいて遺言が作成された」と言う証拠の為、遺言の作成状況を動画撮影する等の自衛手段を講じた方が良いでしょう。