認知症等で遺言が無効になった事例を具体的に解説します

こんにちは。横浜のもめない相続の専門家、司法書士/上級心理カウンセラーの甲斐です。

今回は、認知症等で意思能力・判断能力が低下していた事を理由として、遺言書が無効になった事例をお話ししたいと思います。

相続でもめるパターンの一つとして、「遺言の無効を争う」と言うケースがあります。

遺言が法律上必要な形式を備えていないと言う主張もありますが、「遺言者が遺言を行った当時、認知症等で意思能力・判断能力が低下しており、遺言能力が無かったので無効。」と言う主張も良く行われます。

「認知症」
「意思能力、判断能力がない」
「遺言能力がなく、無効」

と、言葉にすると非常に簡単なのですが、具体的に遺言の当時、どの程度のレベルであれば、遺言が無効と判断すべきなのでしょうか?

遺言が無効になった判例等を掲載しているサイトは山ほどありますが、遺言者が遺言を行った当時にどのような状況であったのか、具体的に記載しているサイトは少ない状況です。

そこで今回は、皆様が一番気になるであろう、「遺言者が遺言を行った当時、どのような状態、どのような事実関係があれば遺言が無効と判断されるのか?」を分かりやすく解説していきたいと思います。

 

1.公正証書遺言が無効とされたケース アルツハイマー型認知症

⑴ 遺言者は中等度から高度に相当するアルツハイマー型の認知症と診断されていた。
⑵ さらに記憶障害、見当識障害等があった。
⑶ しかも、記憶障害については、短期的な記憶障害だけでなく、自分の子供の人数や病歴などの長期的な記憶についての障害も発生していた。
⑷ 日常会話については、話しかければ返答はするが、簡単な会話のみに答える程度であった。
⑸ 遺言作成の約半年前に実施された遺言者の知的機能検査によると、医師によって高度の認知症が認められるとの診断がされていた。
⑹ 遺言の内容は比較的複雑な内容であった。
⑺ 公証人は、作成された公正証書遺言の原案を読み上げて遺言者に間違いがないか確認を行ったが、遺言者の答えは「はい」「そのとおりで結構です。」などの簡単な返事をするにとどまった。

と言う事実関係から、裁判所は遺言者に遺言能力があったとは認められないとして、公正証書遺言が無効と言う判断をしました(横浜地裁平成18.9.15)。

医師の診断では高度の認知症が認めらているにも関わらず、遺言の内容が複雑であった事、その他トータル的に考えて「遺言能力がなかった」と裁判所は判断したと推測されます。

 

2.公正証書遺言が無効とされたケース 成年後見の申立て

⑴ 公正証書遺言が作成される約2ヶ月前に、遺言者に対して成年後見の申立てがなされ、その成年後見開始の関係で医師が家庭裁判所から鑑定の依頼を受けていた。
⑵ 医師は「アルツハイマー型認知症を発病しており、程度は中等度以上」等と鑑定した。
⑶ 公正証書遺言作成日の約3週間後に、当該鑑定結果に基づいて成年後見が開始された。

と言う事実関係から、公正証書遺言が無効とされたケースです(高知地裁H24.3.29)。

(法定)成年後見が利用される条件として、事理弁識能力(ある物事の実態やその考えられる結果などについて理解でき、自ら有効な意思表示ができる能力)が常に欠けている事が必要です。

公正証書遺言が作成された時は、遺言者は成年後見人ではなかったのですが、実質的に同じとみて裁判所は判断したと思われます。

 

3.公正証書遺言が無効とされたケース 知的能力の低下

⑴ 遺言者は、知的能力が低下し、廊下を便所を間違えて廊下を汚してしまうような状態だった。
⑵ 「高度の脱水症状、腰椎骨折、パーキンソン病」と診断されて入院していた。
⑶ 入院後間もなくその妻と懇意にしていた税理士が主導して、公正証書遺言の作成を計画した。
⑷ 遺言の内容を公証人が読み聞かせた時、遺言者は「ハイ」とか「ハァ」等、簡単な返事の言葉を言っただけで、遺言の内容に対して具体的な発言は一切無かった。
⑸ その為、公証人が担当医師に「遺言能力がある旨の診断書を作成してほしい」と求めたが、医師に「遺言者は通常の生活における一応の理解力、判断力はあるが、遺言能力ありとの診断書は書けない。」と断られた。

と言う事実関係があり、遺言が無効になったケースです(東京地方H11.9.16)。

医師は「遺言能力がない」と判断したのですが、公証人は「遺言能力がある」として、公正証書遺言を作成しました。

例え公証人が関与したからと言って、それだけでは遺言者に遺言能力があるとは言えないと言う、ある意味当たり前の事が判断されたケースです。

 

4.公正証書遺言が無効とされたケース ガンによる入院、鎮痛剤の投与

⑴ 遺言者はガンによる入院中で、痛みの緩和の為に専用の鎮痛剤の処方を受けていた。
⑵ 少なくとも公正証書遺言作成の約2週間前からは、鎮痛剤による傾眠傾向(軽い意識障害)や精神状態の副作用が頻繁に見られるようになっていた。
⑶ 公正証書遺言作成時の遺言者は、公証人の問いかけに受動的に対応するのみであった。
⑷ しかも、公証人が遺言を読み上げ中に、遺言者は目を閉じてしまったり、自分の年齢を間違えて解答した。
⑸ 遺言者は、公正証書遺言作成の約1ヶ月前に、遺言内容を大きく変える旨の考えを大学ノートに記載していた。
⑹ それにも関わらず、公正証書遺言の内容は上記の内容とは異なっていた。

以上の事実関係から、公正証書遺言が無効と判断されたケースです(東京高裁H25.8.28)。

 

5.公正証書遺言が有効になる条件を満たしていなかったケース

⑴ 公正証書遺言作成の約10日前から徐々に意識レベルが低下していった。
⑵ 公正証書遺言作成日の約1週間前には、目を閉じて傾眠傾向の状態になり、呼びかけに対してあまり反応しないような意識レベルに陥っていた。
⑶ 遺言書作成日の前日にも傾眠傾向があり、努力様の呼吸(不足した呼吸量を補うために行われる呼吸)を続けており、同日夜には見当識障害が認められた。
⑷ 公正証書遺言書作成当日は、遺言者は酸素マスク及び上肢と手指に抑制器具を装着して酸素供給を受けていた。
⑸ 公証人により公正証書遺言の案を読み聞かされている最中に、首を大きく横に振って非常に苦しそうな態度をとり、そのまま眠ってしまった。
⑹ 公証人が一旦、公正証書遺言の作成を断念するほどの状況になったが、妻が何度も遺言者を揺すり、声をかけてようやく遺言者は目を覚ました。
⑺ 遺言書作成日の翌日には、遺言者の意識レベルは、刺激に応じて一時的に覚醒するが、目を開けていても自分の名前や生年月日が言えない状態であった。

上記の事実関係から、遺言者に遺言能力がないと判断されたケースです(東京地裁H.20.11.13)。

また、公正証書遺言は、遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授(伝える)伝える必要があるのですが、その条件も充たしていないと判断されました。

さらに、本件は弁護士が関与して作成された公正証書遺言でした。

公証人のみならず、弁護士が関与して遺言を作成しても無効になりえると言う事案です。

 

6.まとめ

裁判所が意思能力・判断能力がない事を理由として遺言の無効を判断する場合、主に

・遺言を行った前後の期間の遺言者の状態はどうだったのか?
・遺言を行った当時、誰にどんな財産を渡したいのかを遺言者は理解していたのか?
・遺言の内容は簡単な内容か?それとも複雑な内容か?

等、様々な事情を考慮して、有効無効を判断しています。

なお、お気づきだと思いますが、今回ご紹介しました事例は、全て公正証書遺言です。

公正証書遺言は、後々の相続トラブルを防止するため、自筆証書遺言よりも優れていると言う利点があります。

しかし、それはあくまで遺言者に遺言能力がある事が大前提です。

良く、遺言者が遺言能力が無いにも関わらず、自分にとって都合の良い遺言を遺言者に残してもらう為に公正証書遺言の制度を利用する事を考える方がいらっしゃいます。

しかし、遺言者に遺言能力がないのであれば、結局は無駄になってしまう可能性があります。

そればかりか、他の相続人の反感を買い、無意味な相続トラブルに発展する事にもつながってくるのです。

ご両親が認知症等で意思能力がないけれど、遺言を残してもらいたいと思われている方は、今一度この事をしっかりと考えて頂きたいと思います。

 

 

 

【このブログの著者】

甲斐 智也(かい ともや)
司法書士/上級心理カウンセラー
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