
こんにちは。司法書士の甲斐です。
今回の記事は、特に自筆証書遺言についてご相談、ご依頼されたい方向けの記事です。
(なおご紹介する事例は、良くあるご相談を参考にした創作です。)
【事例】
ある日、山田太郎さんが亡くなりました。
親族間で葬儀等を終わらせて、太郎さんの部屋の整理をしていたら、机の中から、下記のような自筆の遺言書が出てきたのです。
遺言には上記の事以外、書いていませんでした。
太郎さんにしてみれば、熟慮の上で、自宅を次男に相続させる事を決めたと思うのですが、これに他の相続人は大激怒です。
特に長男の憲一郎は、
「自宅は先祖代々続くものであり、長男である自分が相続するのが当然だろう!」
と次男の憲次さんに詰め寄ります。
憲次さんも自宅を相続したかった事もあり、一歩も引きません。
結果、ドロドロの『争続』となってしまったのでした。
1.自己流遺言の危険性
最近は書店等で、遺言作成キットが販売されている事もあり、遺言が身近になっています。
遺言は相続争いを防ぐ為の最善の方法なのですが、専門家に一切相談せずに自己流で遺言を作成した結果、かえって争いになるケースも少なくありません。
紛争を未然に防ぐはずの遺言が、争いのタネになってしまうのは本末転倒です。
その為今回は、『紛争を未然に防ぐ』自筆証書遺言を作成する為の注意点を記載したいと思います。
なお、自筆証書遺言の形式的な注意点はこちらをご覧下さい。

2.自己流遺言で陥りやすい欠点
① 各相続人への感情の配慮がない
ご自分の財産ですので、誰に相続させるかは基本的に自由です。
しかし、各相続人にも感情があります。
事例では自宅を次男に相続させる遺言で、長男がこれに猛反発しています。
長男としてみれば自分がきちんと家を守っていく覚悟をしていたのでしょう。
それなのに自分が相続できない・・・大きく落胆する事は簡単に想像する事ができるでしょう。
今回は自宅でしたが、全ての財産を特定の相続人に相続させる旨の遺言を書いた場合はどうでしょう?
やはり同様に、相続人間でもめる事は必須です。
上述したとおり、ご自分の財産を誰に相続させようが自由です。
しかし、その他の相続人の感情に配慮し、少しでも紛争を防ぐのであれば、「なぜそのようなしたのか?」と言った理由を遺言書等で明確にしてあげるべきです。
② 遺留分の存在
兄弟姉妹を除く各相続人は、遺留分と言う最低限度の相続分があります。
遺言の中で特定の相続人の遺留分が侵害されると、紛争になる原因の一つになります。
特定の相続人の遺留分を侵害する遺言書を書くのであれば、そのアフターフォローもしっかりと考える必要もあるのではないでしょうか?
例えば、遺留分を侵害する理由や、生命保険を活用して別途遺留分の対応を行う等です。
このようなちょっとした配慮でも紛争を防止する効果があります。
③ 事前に何らの根回しをしていない
相続人間でもめない事が明らかな場合であれば良いのですが、もめる要素があるのであれば、事前に各相続人の要望を聞いた方が良いと思います。
そうすれば相続人も「相続の事についてきちんと考えてくれている」と理解を示してくれる事もあります。
④ 相続財産の特定の仕方が不適切
遺言には相続財産として「自宅」と記載がされています。
ではこの遺言をもって次男名義の相続登記ができるかと言えば、その答えは『No』です。
なぜなら「自宅」では、不動産の特定が出来ておらず、法務局の登記官がどの不動産に相続登記を行えば良いのかが分からないからです。
なお、この「自宅を○○に相続させる」と言う遺言は本当に良く目にします。
その度にこのままでは相続登記ができない事と、別途必要な書類を相続人の方に記入して頂く必要があり、その分手間と時間がかかりますので、やはり相続財産の特定は正確に行う必要があります。
不動産の特定方法ですが、登記事項証明書を取得されて、その記載どおりに書くと良いでしょう。
土地であれば、所在、地番、地目、地積。建物であれば、所在、家屋番号、種類、構造、床面積です。
なお、余談ですが、弁護士が作成した離婚協議書を持参されて、財産分与による所有権移転登記を依頼された事があるのですが、その協議書にも
「自宅を妻○○へ・・・」
と言う文言があり、これでは登記ができない事を説明したところ、絶句されていました。
ちなみに弁護士に支払った報酬は100万円だったそうです。
3.まとめ
遺言は身近で簡単に作成できるものになりましたが、それでも専門家のアドバイスは一度聞いた方が良いと思います。
自己流遺言で紛争を悪化させるより、手間をかけてでも、紛争を予防する事を目指した方が、残される人達にとっても良い結果になります。
当事務所でも遺言に関するご相談、ご依頼は積極的に承っておりますので、お気軽にご相談下さい。