
こんにちは。司法書士の甲斐です。
私は営業ツールとして良くTwitterを利用しているのですが、相続・家族信託の様々な専門家が
私と同じ様にTwitterで情報発信されています。
が、中には
「それ、間違ってますよ・・・。」
と言う発言もしばしばあったりするんですよね。
士業であればよーく分かっている、「遺言で勘違いしやすいポイント」ってのがあるんです。
相続法をガッツリと勉強しないと、うろ覚えな知識で勘違いしやすいんですね。
その為、今回は遺言で勘違いしやすい代表的なモノを取り上げてみたいと思います。
1.日付けが新しいものが常に有効?
自筆証書遺言も公正証書遺言も、何度も作成する事ができます。
例えば、ある人が
と言う遺言を令和元年10月1日に作成し、
と言う遺言を令和元年12月1日に作成した場合、後から作成した遺言が有効になります。
その為、一般向けの書籍には、「後から作成した遺言が有効」と解説しているモノがあります。
でも、次の場合はどうでしょうか?
と言う遺言を令和元年10月1日に作成し、
と言う遺言を令和元年12月1日に作成した場合はどうでしょうか?
実はこの場合、先に作成した遺言も後に作成した遺言も有効なんです。
このように、「内容が矛盾していなければ」どちらの遺言も有効なままになるんです。
実は今回のテーマにしようとしたきっかけがこれで、今年勉強していたFP3級の教科書に同じ事が書かれていたのです。
「遺言は、後から作成した遺言が有効になる」と。
上記の内容が矛盾しないケースの事は一切書かれていませんでした。
これでは知らない人は勘違いをしても当然ですね。
FPは相続に関わる事があるのですが、その教科書に正確な事が書かれていないと言う事は、作成日付けに関して誤解している人が多いと思ったのです。

教科書に書いているからと言って、鵜呑みにしてはいけないと言うケースでしょう。
2.全ての財産を相続させたい場合、財産の詳細を記載しなくても良い?
次の事例は、正確には勘違いに関する事ではありませんがご紹介したいと思います。
例えば、自分の財産を妻に全て相続させたい場合、
「私の全ての財産を妻〇〇に相続させる。」
と書けばOKで、法律上も問題はありません。
しかし、この記載だと実際に相続が発生した場合、奥さんが困ってしまうんですよね。
「全ての財産と言っても、具体的に何があるの??」と。
遺言を残す目的は、相続人間でもめないようすると言うのもあるのですが、相続手続きを速やかに行うと言う目的もあります。
その為、このような記載にした方が、残された家族にとっても、非常に優しい遺言となるでしょう。
不動産
・横浜市泉区〇〇町123番1の土地 宅地 123平方メートル
・同所123番地1 家屋番号123番1の建物
預金
〇〇銀行 〇〇支店 普通口座 口座番号 〇〇〇〇
有価証券
株式会社〇〇 普通株式 〇〇株
このように主な財産を記載しておく事で、その後の相続手続きも容易になるでしょう。
なお、例えば記載している銀行口座を解約し、別の銀行口座に入金したとしても、「全ての財産を」と記載していますので、法律上の問題はありません。
(相続人は混乱すると思いますが・・・。)
全ての財産を相続させたい場合、具体的な財産を記載しない事が多いのですが、具体的に表記すると相続手続きが速やかに進むメリットもあります。
3.清算型遺贈は被相続人名義から直接買主へ登記申請しても良い?
清算型遺贈とは、例えば遺産を売却し、その後に相続債務等を全て差し引いた後の金銭を、相続人に相続させる旨の遺言です。
この清算型遺贈の場合、例えば不動産の登記申請はどうするのか?と言う疑問点が出てきます。
良くある勘違いは、
「遺言執行者が被相続人名義のまま不動産を売却して、買主名義に直接登記申請を行う」
と言うのがあるのですが、これは間違いです。
登記実務上は、
⑵ その後、買主名義に所有権移転登記申請を行う。
と言う流れになります。

なお、遺言執行者が選任されている場合は、これらの登記申請は遺言執行者が行います。
4.自筆証書遺言の訂正方法を間違えたら、遺言自体が無効になる?
自筆証書遺言は法律上決められた要式に従って作成する必要があります。
そして、訂正する場合も法律上の要式に従って行う必要があるのですが、この訂正方法を間違えた場合、どうなるのでしょうか?
実はこれは、遺言そのものは有効なままで、訂正が無効となるだけです。
ただし、訂正方法も結構大変な事がありますので、場合によっては遺言を書き直した方が良い事があります。
5.無効な遺言は相続において何の意味を持たないのか?
上記のとおり、遺言は法律上決められた要式に従って作成する必要があります。
この決められた様式に違反すると、遺言そのものが無効になるので、相続において何も考慮しなくても良いのか?と言う問題が出てきます。
専門家によっては「無効な遺言は意味がないから、捨てても良いんですよ。」とアドバイスする事もあるようです。
実は、無効な遺言であっても死因贈与としての効力が認められる可能性がありますし、特別受益の持戻し免除の意思表示の証拠して認定する事ができる場合があります。
その為、「無効な自筆証書遺言だから」と言って検認手続きを行わなかったり、捨てたりするのはNGと言う事になります。
6.不動産の表記は固定資産税納税通知書の表記で良い?
財産を特定する方法として、不動産の場合、登記事項証明書の記載をそのまま書くのがベストです。
しかし法務局に行くのが面倒だった場合、手元にある「固定資産税納税通知書」の記載を参考にされる方がいらっしゃるのですが、これは止めた方が良いでしょう。
固定資産税納税通知書の記載の不動産の表示は登記事項証明書とは異なる場合があります。
さらに、非課税の私道が財産である場合、固定資産税納税通知書には記載されていませんので
財産もれが発生します。
その為、権利証を元に最新の登記事項証明書を取得した方が良いでしょう。
7.まとめ
遺言は身近な物になりましたが、注意すべきポイントは沢山あります。
これを「面倒くさい」と捉えるか、「残される家族が困らない為の重要な事」と捉えるかで、家族の未来が変わってくる事になります。
現代社会はインターネットやSNSの発達により、相続や遺言に関する情報が簡単に入手する事が出来ます。
遺言の知識が身近になる事は非常に素晴らしいのですが、その一方で法律における基礎的な考え方が無いが為に、入手した情報を勘違いする方もいらっしゃるのです。
遺言に関する情報や遺言のひな型をそのまま利用して良いのかの判断は、法的な考え方が必要になってきます。
ご自身で勉強されるのは当然素晴らしいのですが、時には我々専門家を良い意味で利用するようにしましょう。