遺言の書き換え合戦に巻き込まれた場合の対処方法

相続トラブル事例

こんにちは。司法書士の甲斐です。

今後予想される相続トラブルを未然に防ぐため遺言を残す事は非常に有効なのですが、場合によってはその遺言が原因となって相続トラブルに発展する事があります。

【事例】
Q:私は今年で70歳になるのですが、私の子供達の事で非常に悩んでいる事があります。

私には自宅やそれなりの預金があり、そろそろ相続の事を真剣に考えなくてはと思い、遺言を残しているのですが、子供達から必要に遺言の書き換えを迫られています。

と言うのも、私には子供が3人いるのですが、この3人の仲は非常に悪く、自分達の有利になるような遺言を私に書かせようとしているのです。

子供達の執拗な要求に根負けした私は、何度か新しい遺言書を作成したのですが、もう限界です。

何か良い方法はないのでしょうか?

1.遺言の書き換え合戦とは?

遺言書は、一度作成すればお終いではなく、何度も作成する事が出来ます。

この場合、先に書いた遺言書の内容と、後に書いた遺言書の内容が矛盾する場合があると思います。

例えば、

「横浜銀行和泉中央北南支店の普通口座を長男Aに相続させる」

と言う内容の遺言書を作成して、その後から

「横浜銀行和泉中央北南支店の普通口座を二男Bに相続させる」

と言う内容の遺言書を作成した場合です。

この場合は、後の遺言書で前に作成した遺言書を撤回したものとみなされます(民法第1023条)。

遺言書による撤回は、遺言書の作成方法に従っていれば良いので、自筆証書遺言を公正証書遺言で撤回しても良く、その逆も大丈夫です。

このように遺言を撤回できる制度があるのは、遺言者にとって良い反面、悪い部分もあります。

それは、相続人(予定者)が、遺言者に説得等を行い、既に遺言書が作成されていたとしても、その相続人にとって都合の良い遺言書を残してもらう事が出来る、と言う点です。

つまり、遺言者が

「相続人Aにとって有利な遺言書を作成した」

と言う事実を知った別の相続人Bが、遺言者を言葉巧みに誘導して、

「相続人Bにとって有利な遺言書を新たに作成」

する事が出来ます。

そして、その事実を知ったAは、また遺言者に働きかけ自分に有利な遺言書を作成してもらう・・・。

と言う状況が永遠に続く、これが遺言の書き換え合戦です。

遺言の書き換え合戦は、相続人の仲があまり良くない状況の時に発生し、遺言の書き換え合戦を行う事で、相続人の仲がさらに悪くなり、遺言書があったとしても相続でもめる確率が高くなります。

(「親を騙して遺言書を作成させた!」等の遺言書の作成過程を巡って争いになりやすいのです。)

この時に困るのは、当事者である遺言者です。

相続人に言われるがままに遺言書を書き続け、精神的に肉体的にも消耗しきってしまい具合が悪くなって入院、なんて事もあり得ます。

それでは、遺言の書き換え合戦に巻き込まれて嫌気が差している遺言者は、一体どのような対応を行えば良いのでしょうか?

2.遺言の書き換え合戦に巻き込まれて、嫌気が差している場合

① 今まで作成した遺言を全て撤回する

今まで作成した遺言が、程度の差はあれ特定の相続人の意図が含まれていた、本来ご自身が考えていたものとは違う場合、一度リセットする方法が考えられます。

つまり、新しい遺言で今まで作成した全ての遺言を撤回する方法です。

「遺言者はこの遺言で、今まで作成した全ての遺言について全部撤回する」

と言うような内容の遺言を残せばOKです。

この遺言を作成する事により、結果として遺言を作成しなかった事になります。

つまり、遺言者が亡くなって相続が発生した場合、相続人は遺産分割協議を行う必要があると言う事です。

遺言書を作成する事が嫌になったのならば、後の事は相続人に任せて、ご自身は誰にも縛られる事なくご自身の人生を送る、と言うのも一つの考え方でしょう。

② 自分が本当に残したい遺言を作成する

①とは逆のパターンで、ご自身が本当に残したい遺言書を作成する、と言う方法があります。

遺言書はあくまで遺言者の最終意思であり、誰かの指図に従う必要はありません。

あなたの財産を誰に残したいのか、あなたの本心の遺言書を作成すると言う考え方です。

③ 新たに遺言を作成した場合の注意点

上記①、②も「新しい遺言書作成する」と言う点では同じなのですが、注意点があります。

それは、「遺言書を作成した事を相続人に伝えない方が良い」と言う点です。

もしあなたが新たな遺言書を作成した事を相続人が知った場合、必ずまた遺言の書き換え合戦に発展します。

遺言の書き換え合戦が嫌だったのに、またそれに巻き込まれるのは本末転倒です。

その為、相続人には新たに遺言書を作成した事は隠して置いた方が良いでしょう。

しかしそれでは、あなたがもし亡くなった場合に遺言書の存在が明らかにならない可能性があります。

その為、例えば公正証書で遺言を残し、あなたの葬儀に必ず出席しそうな人(あなたが亡くなった事を確実に知る事が出来る人)に、公正証書で遺言を残した事を伝えるのはどうでしょうか?

実際にあなたが亡くなった時に、その方から相続人全員に新たな遺言書の存在を伝えてもらうのです(遺言書の内容は勿論伏せて伝えます)。

こうする事で遺言の書き換え合戦に巻き込まれず、かつ本心からの遺言を残す事が可能になります。

3.まとめ

今回ご紹介した方法は、どちらにしても相続人間の相続トラブルは防ぐ事は難しいでしょう。

とは言え、最優先すべきは遺言者であるあなたの意思と、今後の平穏な生活です。

あなたは出来る事を行ったのですから、以後の事は相続人に任せ、自分らしい人生を送ってはいかがでしょうか?

文責:この記事を書いた専門家
司法書士 甲斐智也

◆司法書士で元俳優。某球団マスコットの中の経験あり。
◆2級FP技能士・心理カウンセラーの資格もあり「もめない相続」を目指す。
◆「相続対策は法律以外にも、老後資金や感情も考慮する必要がある!」がポリシー。
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