遺言の内容が不明確・分からない場合の相続手続きにおける対処方法

遺言

こんにちは。司法書士の甲斐です。

今回の記事は、被相続人が残した遺言の記載内容が、不明確な事についてご相談、ご依頼されたい方向けの記事です。

(なおご紹介する事例は、良くあるご相談を参考にした創作です。)

【事例】
Q:先日他界した父の部屋を整理していたら、父の自筆証書遺言が出てきました。

遺言書

遺言者山田太郎は、次のとおり遺言する。

1.横浜市泉区中田中央北一丁目の土地と建物を
長男〇〇に相続させる。

2.神奈川県秦野市南大沢三丁目589-89-90の
土地を次男〇〇に相続させる。

        9日
平成29年6月99

遺言者

住所 横浜市泉区中田北一丁目2番3号

氏名 山田 太郎 ㊞

この遺言書のとおりに不動産の名義変更を行おうとしたのですが、法務局より

「不動産の特定が出来ていないので、このままでは手続きが出来ない」

と言われてしまいました。

また、日付が「99→9日」と訂正されているのですが、この訂正方法が正しい訂正方法では無いらしく、そもそもこの遺言書は無効なのではないか?と言う指摘も出てきました。

私達相続人には他に三男がいるのですが、現在どこにいるのか分からない状況です。

出来れば三男を除いてこの遺言書どおりに手続きを行いたいのですが、何か良い方法はありませんでしょうか?

1.遺言の内容が不明確な場合の基本的な考え方

遺言書において、内容が不明確な場合、特定の条項の解釈をどのように行うかについては、最高裁判所が下記のように判断を示しています。

(最高裁判決昭和58年3月18日)

遺言の解釈にあたっては、

・遺言書の文言を形式的に判断するだけではなく、遺言者の真意を探究すべきものであり、

遺言書が多数の条項からなる場合にそのうちの特定の条項を解釈するにあたっても、

・単に遺言書の中から当該条項のみを他から切り離して抽出しその文言を形式的に解釈するだけでは十分ではなく、
・遺言書の全記載との関連、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などを考慮して

遺言者の真意を探究し当該条項の趣旨を確定すべきものであると解するのが相当である。

このように、遺言書の特定の部分が不明確であった場合、遺言書の全体との関連性や遺言書に書かれていること以外の諸事情を考慮することも認めています。

まずはこの考え方を大前提として、内容が不明確な遺言を検討する必要があります。

2.遺言は無効なのか?

自筆証書遺言の訂正は、「遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない(民法第968条2項)とされています。

上記の遺言書は、日付を「99→9日」と訂正しておりますが、変更箇所に押印等がされておらず、法律の規定に沿った訂正方法ではありません。

その為、遺言書そのものが無効と判断される可能性がありますが、日付について明らかな誤記がある場合、日付の特定が出来れば有効とされる裁判例も存在します(東京地判平3・9・13)

上記の遺言書に記載されて「99」は明らかな誤記であり日付の特定も可能ですので、遺言書として有効と判断されるべきでしょう。

3.不動産の特定について

自筆証書遺言の場合、事例のように不動産の特定が不明確な場合が実際にあります。

この場合は、遺言書に記載された不動産と同一性がわかる公的証明書を添付して不動産の特定を行う方法があります。

① 不動産の確認

事例の遺言書では、1の遺言おいては中田中央北一丁目以降の記載が省略されています。

また2においては実は589番89、589番90の2筆の土地の事を表していました。

この場合の対応方法として、まず、遺言者である被相続人の所有している不動産の中に、遺言書に記載された不動産と一致するようなものが無いかを確認します。

具体的には固定資産税納税通知書や名寄帳と言った公的書面を取得します。

② 不動産の同一性を証明する書面

固定資産税納税通知書や名寄帳には所有している不動産の表示が記載されていますので、その内容を確認します。

これらの公的書面の不動産の表示の記載から、遺言書に記載された不動産の表示と特定出来れば、不動産の同一性があると判断され、このような公的書面を添付する事により、登記が完了される場合があります。

③ 上申書の添付

なお、実務上は上記の公的書面以外にも、相続人全員が作成した「遺言書に記載された不動産は○○○の事で間違いありません」と言った趣旨の上申書を法務局に添付する事が多いです。

なお、上申書を添付する場合は、実印を押印し、印鑑証明書の添付も求められます。

4.まとめ

以上、不動産の特定が不明確であったとしても、相続登記を行う方法は存在します。

不明確な遺言でお困り、お悩みの場合はお気軽に当事務所にご相談下さい。

文責:この記事を書いた専門家
司法書士 甲斐智也

◆司法書士で元俳優。某球団マスコットの中の経験あり。
◆2級FP技能士・心理カウンセラーの資格もあり「もめない相続」を目指す。
◆「相続対策は法律以外にも、老後資金や感情も考慮する必要がある!」がポリシー。
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