
こんにちは。司法書士の甲斐です。
巷では様々な相続税対策が紹介されていますが、問題がある相続税対策があるのを知っていますか?
パッと見ると問題がないように見えますが、その実態は「法律の抜け穴」であり、後々問題になるケースもあります。
そこで今回は、後々問題になる(可能性がある)相続税対策を二つご紹介したいと思います。
1.一般社団法人を使った相続税対策
一般社団法人を使った相続税対策とは、
・財産を残す側(親)が一般社団法人を設立。
・その後、親の財産を一般社団法人に移す事で、親自身の財産を減らす。
・相続が発生したら、一般社団法人の社員を子供に交代させる。
以上の流れを行う相続税対策です。
人の集まりに法人格(法律上の権利・義務)を与えたもの。
従業員と言う意味ではなく、法人の構成員の事。
株式会社で言えば「株主」にあたる。

この相続税対策、すごいですね!一般社団法人は簡単に設立できますし、資産家であれば誰でも利用しそうな相続税対策ですね。

その為、相続税を逃れるためだけの一般社団法人の設立が増えて問題になったんです。その結果、平成30年度の税制改正で、規制がされるようになりました。
規制の具体的な内容は、
「親族で支配している一般社団法人を個人とみなして相続税を課税する」
というものです。
ですので、単なる相続税対策の一般社団法人の設立は意味をなさなくなりました。
2.養子縁組を利用した相続税対策
相続税には基礎控除額があり、この基礎控除額を超える部分について相続税が課税される仕組みです。
相続税の基礎控除額は
3,000万円+600万円×相続人の人数
で計算されます。
この相続人の人数がポイントで、相続人が子供の場合、養子もこの人数に含まれます。
(実子がいる場合は1人まで、実子がいない場合は2人まで人数にカウントする事ができます)

最大で1,200万円ですか。結構大きいですね。

そうですね。上手く制度を使えばそれだけ相続税を低く抑える事ができます。でも、それが問題になり、裁判にまで発展した例があるのです。

え?裁判ですか??

はい。「相続税対策」として養子縁組を行うのは、そもそも法律上問題がないのか?と言う点です。
平成29年1月31日 第三小法廷判決
「養子縁組は,嫡出親子関係を創設するものであり,養子は養親の相続人となるところ,養子縁組をすることによる相続税の節税効果は,相続人の数が増加することに伴い,遺産に係る基礎控除額を相続人の数に応じて算出するものとするなどの相続税法の規定によって発生し得るものである。相続税の節税のために養子縁組をすることは,このような節税効果を発生させることを動機として養子縁組をするものにほかならず,相続税の節税の動機と縁組をする意思とは,併存し得るものである。したがって,専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても、直ちに当該養子縁組について民法802条1号にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできない。」
この判決のポイントは、相続税対策の動機と養子縁組をする意思表示は併存し得る、と言う部分です。
つまり、
・相続税対策が目的だけで、実際に養子縁組を行う意思表示がない。
・養子縁組は形式だけであり、そこには養親・養子としての実態が伴っていない。
このような相続税対策は否定されるでしょう。

つまり、養子縁組なんだから、法律上の親子関係になる事をそもそも理解していないとダメって事ですね?

大雑把に言うと、その通りですね。
3.まとめ -相続対策は「王道」でやりましょう-
相続対策の相談を行っていますと、まれに
「抜け穴は無いのですか?」
と仰られる方がいらっしゃいます。
法律で真正面から認められていない、まさに抜け穴の事なのですが、そのような対策を行ったとしても、いずれ何らかの問題が発生する可能性が高いです。
あまり質が良くない専門家や税理士が、良く分からない相続税対策を勧めてくる場合があります。
しかし、そのような話しに耳を傾けると、不利益を被るのはあなたです。
相続対策は、抜け穴を探すのではなく「王道」を行うようにしましょう。