
こんにちは。司法書士の甲斐です。
不動産を売却する時や、抵当権を設定する時にいわゆる権利証(正式名称は登記済証や登記識別情報)が必要となってくるのですが、この権利証を無くされている方がまれにいらっしゃいます。
権利証が無ければ通常は登記に関与する司法書士が「本人確認情報」を作成して、権利証の代わりとして、無事に登記を完了させる、と言った流れが一般的です。
でも、そもそもこの「本人確認情報」って一体何なのか?本人確認情報を司法書士に作成された事がある方は、非常に疑問に思われていると思います。
「少し質問されただけで、2~3枚の書類を作成されただけで数十万円を取られた!!」とインターネットの掲示板で書かれた方もいらっしゃいます。
この本人確認情報、その目的や趣旨が非常に分かりにくく誤解を生みやすいのですが、今回はその司法書士が作成する「本人確認情報」について解説していきたいと思います。
1.本人確認情報とは?
売買による所有権移転登記や、抵当権設定登記等、一定の登記を行う場合、その登記義務者(この場合は不動産の所有者)は、その登記において権利証を提出する必要があります。
もし、権利証を提出しなくても、登記自体は出来るのですが、後述するとおりそれには様々な問題があります。
その為、司法書士が登記義務者(不動産の売主)から一定の事項を聞き取り、「本人確認情報」を作成する事で、登記を問題無く完了させる事が一般的です。
本人確認情報は文字通り司法書士が作成する「この人は登記義務者に間違いが無いですよ」と保証する意味合いがあり、その意味において登記に全責任を負う、と言っても過言ではありません。
実はこれは、司法書士にとってみれば非常に怖い事なのです。
基本的に司法書士は登記義務者と初めて会います。初めてあったにも関わらず、「この人は登記義務者本人に間違いはありません」と保証し、数千万円の取引の責任を持つのです。
身分証明書なんて簡単、精巧に偽造できますので、本人確認情報は司法書士にとって非常にリスクが高いものであると、まずはご理解下さい。
2.なぜ、本人確認情報が利用されているのか?
ではなぜ本人確認情報の制度が利用されているのか?その理由を解説して行きたいと思います。
登記申請を行った際に、登記義務者(不動産の所有者)が権利証を提供しなかった場合、かつ司法書士の本人確認情報も提供しなかった場合、「事前通知制度」が利用されます。
事前通知制度とは、法務局が登記義務者に対して「平成〇年〇月〇日に行われた登記申請は、あなたの意思に基づくものですか?」と言った趣旨の内容の書面を郵送し、登記義務者がそれに対して返送する事によって登記を完了させる制度です。
「何だ。本人確認情報が無くても登記が出来るんじゃないか」と思われたあなた。確かにそのとおりなのですが、事前通知制度には重要なポイントがあります。
それは、
「法務局が事前通知を発送した日から2週間以内に返答しないと、登記申請が却下される」のです(不動産登記法第25条第10号)。
つまり、売買であれば、買主は何千万円と言うお金を支払ったけども、不動産の所有権の登記を行う事が出来ず、その不動産の所有権を第三者に対して対抗する事が出来ないのです。
抵当権設定であれば、金融機関は何千万円と言ったお金を融資したけれど、抵当権が設定されなかった。そのような非常事態になるのです。
なお、2週間以内に返信すれば良いのでしょう?と思われたかもしれませんが、2週間なんてあっと言う間です。
「忙しくて忘れてしまった」何て事は良くありますし、実際に売買や抵当権設定以外の登記申請で、事前通知を利用したところ、「2週間以内に法務局へ返信するのを忘れてました。」と当事務所にお問い合わせがある事も多々あります。
つまり、事前通知制度を利用しても登記義務者が確実に対応する保証がどこにもない為、例え司法書士にリスクがあったとしても、司法書士による本人確認情報が利用されるのが一般的なのです。
3.本人確認情報の報酬
本人確認情報の報酬は司法書士によって異なってくるのですが、おそらく10万円前後と言った金額が相場であるような感覚がします。
「高々書類を少し作成するだけで10万円?ボッタくりじゃないの?」と思われたかも知れませんが、上述したとおり、今まで会った事が無い方について、本人であると保証するのです。
そして、数千万と言った取引を完結させる責任を負うのです。
「数千万円の取り引きを10万円で担保する」と考えて頂き、その報酬が高いか低いかを判断して頂きたいと思います。
4.まとめ
このように、権利証(登記済証、登記識別情報)を紛失されると、非常に手間がかかる事になります。
さらに権利証は再発行されませんので、権利証(登記済証、登記識別情報)は紛失されないよう、大切に保管するようにして下さい。