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こんにちは。司法書士の甲斐です。
さて、今回のお話しは、
『父が先に亡くなりその後の母の相続で、相続人が子供のみの場合の相続手続きのやり方』ですが、実はこのケースの相続は、非常にもめやすいのです。
父が亡くなった時に、家族は相続手続きを一通り経験しているはずなのですが、なぜ母の相続でもめてしまうのでしょうか?
今回は、その謎に迫り、注意点と解決策をお話ししたいと思います。
※「通常の相続手続きの事は既に勉強済みで知っているよ」言う方は下記の目次から「3.両親がいなくなった相続は話し合いが紛糾する」まで進んで下さい。
1.母が亡くなり、相続人が子供のだけの場合の相続手続き
基本的には父の時の相続手続きと同じです。
相続手続きの流れは、
② 相続財産、遺言の調査
➂ 限定承認、相続放棄の判断
④ 準確定申告(必要な場合のみ)
⑤ 遺産分割協議
⑥ 遺産の相続手続き(名義変更)
⑦ 相続税の申告・納税(必要な場合のみ)
① 被相続人(母)の戸籍の取得、相続人の調査
亡くなった方の戸籍を死亡時から遡って出生時まで全て取得する必要があります。
(出生時までの戸籍が何らかの事情で取得出来ない場合、各市区町村が発行する、取得できない旨の証明書が必要になります。)
なお、子供の中に既に亡くなっている人がいて、その子供(母親から見たら孫)がいた場合、孫が相続人となり、亡くなった子供の出生から死亡時までの全ての戸籍が必要となります。
② 相続財産、遺言の調査
相続財産に漏れがあると、その都度話し合いが必要になる事があります。
母の生活状況等を考え、出来る限り相続財産(プラスの財産とマイナスの財産の両方)を調べるようにしましょう。
また、遺言が残されているかどうか調査するのを忘れないようにしましょう。
③ 限定承認、相続放棄の判断
相続放棄は各相続人が単独で行う事が出来ますが、限定承認は全ての相続人が行う必要があります。
限定承認を検討している場合、必ず相続人全員の意見を統一しましょう。
④ 準確定申告(必要な場合のみ)
被相続人の最後の確定申告である準確定申告を行います(必要な場合のみ)。
なお、準確定申告の期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内です。
⑤ 遺産分割協議
(遺言書が無い場合)遺産分割協議は全ての相続人で行う必要があります。
遺産分割協議に参加していない相続人が一人でもいた場合、その遺産分割協議は無効となります。
なお、遺産が新たに発見した場合にどうするのか(誰が取得するのか?)と言った内容も決めておくと良いでしょう。
ちなみに、子供が複数いた場合、その法定相続分は等しい割合になります。
実子、養子や非嫡出子(法律上の婚姻関係にない男女の間に生まれた子供)も全て等しい割合になります。
⑥ 遺産の相続手続き(名義変更)
遺産分割協議書を作成し、各遺産の相続手続き(名義変更)を行います。
⑦ 相続税の申告・納税(必要な場合のみ)
相続税の申告・納税を行います。
相続税の申告・納税の期限は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内です。
なお、相続手続きの詳細は下記のページをご覧下さい。
2.相続税上の注意点
① 基礎控除の金額が低くなる
相続税には基礎控除額があり、遺産がこの金額以下であれば、相続税は発生しません。
その計算式は下記の通りです。
② 相続税の配偶者控除が使えない
相続税には、配偶者が相続した場合、1憶6,000万円(1億6,000万円を超えても、配偶者の法定相続分)までは相続税が課税されない特例があります。
しかし、父親も母親も亡くなった今回のケースでは、この特例は使用できませんので注意が必要です。
3.両親がいなくなった相続は話し合いが紛糾する
両親がいなくなった場合の相続がもめる最大の理由は、子供達に良くも悪くも影響力がある両親がいなくなった為です。
父が亡くなり、相続人が母と子供達の場合、子供達が遺産分割協議に不満であっても、「母がいるから」と言う理由で、話し合いに従うことは良くあります。
しかし、父も母も亡くなった相続はそのパワーバランスが崩れてしまい、いままでの不平不満が爆発し、修復不可能な溝が兄弟姉妹間で生まれてしまうのです。
また、遺産分割協議に関する事だけではなく、子供の時からの兄弟姉妹間の確執等、相続の法律問題とは全く関係がない部分で感情的になる事もあります。
「姉はいつもオレの事をいじめていたのに、母は一切注意してくれなかった!」
「弟は大学に入学させたけど、自分には一切学費を出してくれなかった!」
小さな頃から何十年も胸の中でくずぶっていた感情が、両親というストッパーがなくなる事で、一気に爆発して何年間に渡る紛争にも発展するのです。
また、近所に住んでいて1年の内に何度も顔を会わせていれば良いのですが、兄弟姉妹は独立するとそれぞれの家庭を持つようになり、関係性が疎遠になります。


人は5年も経てば価値観がガラッと変わる事があります。
「あいつはきっと分かってくれる」と思っていても、実際には上手く行かないのが相続なのです。
4.相続手続きを行わなければどうなる?
話し合いがまとまらず、相続人どうしが
「もうあいつの顔は見たくない!」
と絶縁状態になり、相続手続きを行わなければどうなるのでしょう?
相続税の問題さえなければ、もう面倒だから放置でも良いのでは?と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、相続手続きを放置すると大変な問題が発生するのです。
① 預金が塩漬け状態になる
遺産分割協議が調わない限り、預金を引き出す事は出来ません。
その為、遺産の中に預金があった場合、いつまでも利用する事が出来ず、塩漬け状態になってしまいます。
また、預金は10年間の消滅時効にかかりますので、10年間何もしないで放置していると、預金を引き出す事は理論上できなくなります。
(銀行側が実際に預金について時効である事を主張する事は少ないとは思いますが、休眠口座の活用の議論もあり、注意は必要でしょう。)
② 不動産が売却出来ない
預金と同様、遺産分割協議を行わなければ、不動産の名義を変更する事は出来ません。
その為、不動産の売却等が自由に行う事が出来ません。
③ 子供や孫に迷惑をかける事になる
仮に相続人が亡くなれば、その子供や孫が相続人としての地位を引き継ぐ事になります。
その為、子供や孫が他の相続人と話し合う必要が出てくるのですが、子供や孫の立場からすると、これは非常に「嫌な事。面倒な事」なんです。
子供や孫は自分が相続人であると言う認識はありませんので、ただひたすら「厄介事に巻き込まれた」と自分の親を恨んだりするのです。
5.空き家になった実家の相続方法
さらに、問題になる事があります。
それが、「空き家になった実家をどうするか?」と言う問題です。
父も母も亡くなり誰も住んでいない「空き家」になってしまった家をそのままにしておくと、管理も大変ですし固定資産税の負担も馬鹿にはなりません。
その為、売却してその売却代金を相続人で分け合うと言う方法を取るのが一般的ですが、これに反対する相続人もまれに存在します。
いわゆる「父と母の思い出に浸りたい」と思っている相続人にとってみれば、すぐに売りたいと思っている相続人は「血も涙もないのか!」と言う存在になり、兄弟姉妹ゲンカの新たな火種となる事があるのです。
6.実家に誰かが住んでも問題になる
また、空き家ではなく、元々兄弟のうち誰かが実家に住んでいる場合でも、もめる相続になる可能性があります。
兄弟のうち実家に住んでいる者がいれば、その者はそのまま実家に住み続けたいでしょう。
しかし、遺産のほとんどが実家で、そのままでは他の相続人が相続する財産がほぼ無い場合、
「実家を売ってお金にして、そのお金を分けましょう!」
と言う話が絶対に出てきます。
これがもし父が亡くなり母親が実家に住んでいる場合であれば、母親を追い出してまで実家を売却すると言うご家庭はあまりないと思います。
「そんな事をしたら、お母さんがかわいそう。」
常識がある大人であれば、このように考えるはずです。
しかし、両親はもういません。
実家に住んでいる相続人に対して他の相続人が、


このままではあなた一人だけが得して不公平!実家は売却して、その代金であなたはマンション等購入すれば良いでしょ?
と実家の売却を迫ってくると言う展開も十分に考えられるのです。
7.問題の解決方法
① 母親に遺言を書いてもらう
オーソドックスな手法ですが、母親にきちんと遺言を書いてもらう事で、相続の紛争を未然に防ぐ事ができるケースが沢山あります。
なお、母親は高齢なため
「そんな面倒な事やりたくない。私が死んだらあんた達の好きにすれば良い。」
と言ってくるかもしれませんがそこはグッとこらえて、遺言を書いてもらうように丁寧に根気良く説明をしてきましょう。
② 家族で相続ミーティングをきちんと行う
母親に遺言を書いてもらうのと同時に、家族間で相続に関するミーティングをきちんと行うようにしましょう。
・兄弟姉妹で財産の分け方に希望はあるのか?
・仮に母親の介護が必要になった場合どうするのか?
等、何度も話し合いを行いある程度決めていくのです。
「今から母親が死んだ事なんて考えられるか!縁起でもない!!」
と思われるかもしれませんが、人はいつか必ず死にます。
その時に、残された家族が余計な事で時間が奪われたりストレスで精神的に追い込まれたりするのではなく、いままでと同じ生活を続け、いつまでも母親の遺志を尊重する為には、家族ミーティングは必要不可欠なのです。
家族ミーティングを逃げずに行うか行わないかは、相続でもめるかもめないかの大きな分かれ道になります。
8.実家が父名義のままの場合の相続登記のやり方
さらに、実家が父親名義のままの場合、相続手続き(相続登記)も問題になってきます。
父親の相続の時に全ての遺産の相続手続きを行うべきところ、実家(不動産)の相続手続きを放置していたケースです。
この場合、原則は父の相続による登記申請を行い、その後、母の相続による登記申請を行う必要があります。
つまり、2回登記申請を行う必要があるのです。
登記は権利変動を公に示すもの(これを「公示」と言います。)ですので、2回相続が発生したのであれば、登記申請も2回行う必要があるのです。
しかしそのような手続きは冗長ですし、登録免許税の負担もあります。
ではこのようなケースはどうすれば良いか?
遺産分割協議を父と母の分でまとめてやれば良いのです。
具体的には1通の遺産分割協議書の中で父と母の相続の事をまとめて記載する事で、父から直接子供名義にする事が可能になります。
9.実家が父親名義のままの場合の遺産分割協議書(例)
・実家の名義が父親の亡山田太郎で、今回母親の山田花子が亡くなった場合の、子供の山田一郎、山田二郎の遺産分割協議書の例です。
遺産分割協議書
下記の者の死亡により開始した相続につき共同相続人全員は、その相続財産について次のとおり遺産分割の協議を行い確定した。なお、被相続人 山田 太郎 には、私共の他に相続人は存在しない。
被相続人の氏名 山田 太郎
本籍地 神奈川県横浜市〇〇区〇〇一丁目2番3号
死亡年月日 平成〇年〇月〇日
(注1)
相続人の氏名 山田 花子
本籍地 神奈川県横浜市〇〇区〇〇一丁目2番3号
死亡年月日 令和〇年〇月〇日
第1 相続財産中、次の不動産については相続人 山田一郎 が相続する。
・横浜市〇〇区〇〇一丁目234番5の土地 宅地 98㎡
・同所234番地5 家屋番号234番5の建物
第2 本協議書に記載のない遺産及び後日遺産が発見された場合は、当該遺産について、相続人間で改めて協議し、分割を行うものとする。
以上の協議を証するため、この協議書を作成し各自署名押印する。
令和〇年〇月〇日
住所 横浜市〇〇区〇〇一丁目2番3号
(注2)相続人兼山田花子相続人 氏名 山田 一郎 ㊞
住所 東京都町田市〇〇四丁目5番6号
相続人兼山田花子相続人 氏名 山田 二郎 ㊞
注1・・・亡くなった相続人の情報を記載します。
注2・・・肩書は、「相続人兼〇〇相続人」とします。「〇〇」の部分は亡くなった相続人の名前を記載します。なお、印鑑は実印を押印します。
10.まとめ
兄弟姉妹に絶大な影響がある両親がいなくなると言う事は、想定外の争いが起こりえます。
母親を余計な事で心配させず、安心してもらうためにもしっかりと家族間の相続ミーティングを行うようにしましょう。
なお、当事務所では
・相続の事を勉強する時間を取る事が出来ない。
・手続きを失敗したくない。
と、お悩みの方の為に、戸籍の収集(相続人の調査)から相続財産の名義変更までの一連の流れの手続きの代理を行っています。
どうぞご検討下さい。
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