
こんにちは。司法書士の甲斐です。
早速ですが、神奈川の某所に事務所を構えている行政書士のHPから抜粋した文章をご覧下さい。
相続放棄手続きサポート
当ページをご覧いただき、ありがとうございます。
皆様の中には、役所から亡くなった方の未払い税金の督促状が届いた(中略)突然の相続問題で悩んでいる方もおられるのではないでしょうか。その解決手段として相続放棄手続きが有効であるかもしれません。
弊事務所では相続に関わる業務の一環として相続放棄手続きのサポートを承っております。お客様には相続放棄の申請書の記載だけご協力して頂きます。申請書に書く内容は難しいものではありません。弊事務所が、裁判所の手順をもとに、お客様に記載方法、記載内容をご案内いたします。
では、弊事務所の報酬からご案内いたします。
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報酬 ●●,●●●円(相続人一人当たり)+ 印紙・戸籍謄本等実費(1万円程度)
(以下略)
(※赤色のアンダーラインは私が追記しました。)
(『申請書に書く内容は難しいものでありません』と言うのは場合によっては間違いなのですが、これは置いておいて、)あなたはこの記事を見て、
「どこがおかしいの?」
と思われるかもしれませんが、実は行政書士が相続放棄の申立てや相談を行うのは違法行為で刑事罰の対象になるのです!
(1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処せられます。
あなたは、相続放棄を行政書士に依頼し、行政書士が受任しませんでしたか?
また、相続放棄の申述書の作成について行政書士に相談し、個別具体的なアドバイスを受けませんでしたか?
これらの行政書士の行為は、全て違法行為です。
さらに、このような違法行為を行っている行政書士に相続放棄の申立てを依頼する事は、潜在的なリスクが存在するのです。
そこで今回は、相続放棄の申立てを行政書士に依頼するリスクについて、解説したいと思います。
1.行政書士が相続放棄を行う事が違法な理由
行政書士が相続放棄の申述書作成やその相談が出来ない根拠は、司法書士法にしっかりと明記されています。
(業務)
第三条 司法書士は、この法律の定めるところにより、他人の依頼を受けて、次に掲げる事務を行うことを業とする。(省略)四 裁判所若しくは検察庁に提出する書類又は筆界特定の手続(省略)において法務局若しくは地方法務局に提出し若しくは提供する書類若しくは電磁的記録を作成すること。五 前各号の事務について相談に応ずること。(非司法書士等の取締り)
第七三条 司法書士会に入会している司法書士又は司法書士法人でない者(協会を除く。)は、第三条第一項第一号から第五号までに規定する業務を行つてはならない。ただし、他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。第七八条 第七十三条第一項の規定に違反した者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
2.どうして違法な相続放棄を行っている行政書士がいるのか?
では、どうして違法な行為を行っている行政書士がいるのでしょうか?
彼らの言い分はこうです。
「裁判所は官公署であり、相続放棄の申述書は官公署に提出する書類だから、行政書士が行えて当然。」
何の事か分からないと思いますが、行政書士法を見てみるとこの事が分かります。
(業務)第一条の二 行政書士は、他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類(その作成に代えて電磁的記録(省略)その他権利義務又は事実証明に関する書類(省略)を作成することを業とする。2 行政書士は、前項の書類の作成であつても、その業務を行うことが他の法律において制限されているものについては、業務を行うことができない。第一条の三 行政書士は、前条に規定する業務のほか、他人の依頼を受け報酬を得て、次に掲げる事務を業とすることができる。ただし、他の法律においてその業務を行うことが制限されている事項については、この限りでない。一 前条の規定により行政書士が作成することができる官公署に提出する書類を官公署に提出する手続及び当該官公署に提出する書類に係る許認可等(省略)について代理すること。
行政書士の業務は、簡単に言いますと
・権利義務又は事実証明に関する書類の作成
・上記の書類を官公署に提出する手続の代理
となります。
つまり、
「相続放棄申述書は官公署(裁判所)に提出する書類であり、その書類の作成や提出は手続きの代理であるから、行政書士が行えるのは法律上当然。」
と言う理屈なのです。
しかし、本当に彼らの言っている事は正しいのでしょうか?
もう一度、上記の行政書士法を良く見て下さい。
こう書いていませんか?
・行政書士は、前項の書類の作成であつても、その業務を行うことが他の法律において制限されているものについては、業務を行うことができない。
・ただし、他の法律においてその業務を行うことが制限されている事項については、この限りでない。
このように、他の法律で制限されている場合は、行政書士は官公署に提出する書類の作成であろうと、その手続きの代理であろうと、行う事ができないのです。
冒頭で紹介した行政書士のHPの文章を再度見てみましょう。
お客様には相続放棄の申請書の記載だけご協力して頂きます。申請書に書く内容は難しいものではありません。弊事務所が、裁判所の手順をもとに、お客様に記載方法、記載内容をご案内いたします。
「申請書」と言うのは恐らく相続放棄の申述書の事でしょう。
「この申述書はお客様に記載してもらうけれど、行政書士がその書き方を説明します。」
と言う趣旨の事が書かれていますよね?
これは明らかに個別具体的な申述書作成の「相談」にあたり、司法書士法違反となります。
3.行政書士に相続放棄を依頼する潜在的なリスク
行政書士が相続放棄を行うのは違法!と言うのは簡単なのですが、それとは別の問題で、このような行政書士に仕事を依頼する事について潜在的なリスクがあります。
行政書士が相続放棄の依頼や相談を受けた時に、頭の中で考えている事はだいたい次の二つです。
・そもそも、違法である事を理解していない。
この二つは考えとしては真逆ですが、どちらも考え方としては非常におかしい事に気が付きますよね?
彼らは、専門家として一番大切な物事を筋道たてて考える力(ロジカル・シンキング)が欠落しているのです。
このような人物に、相続放棄の申述書作成や相談を依頼した場合、どうなると思いますか?
重要な場面で致命的な判断ミスを行い、依頼者であるあなたに回復不可能な損害を与える事だってあり得るのです。
つまり、相続放棄の申述の却下です。
それ程、結論に至るまでの考え方(考える力)と言うのは重要になってくるのです。
4.そもそも、行政書士が行った相続放棄は無効の可能性も
もう一つ重要な点があります。
行政書士が相続放棄の申述書作成に関わったとしても、行政書士にはその業務権限がありません。
その為、依頼した相続放棄は無効になる可能性があります。
債権者から支払いきれない被相続人の借金を請求され、やっとの事で相続放棄を行ったにも関わらずその相続放棄が無効だったら、目も当てられないでしょう。
5.法定業務外なので賠償責任保険で補償されない
さらに問題があります。
各士業には依頼者に業務上発生させた損害について補償できるように保険に加入しているのですが、補償の対象になるのはあくまで法定業務に限られています。
相続放棄は行政書士の法定業務ではありませんので、依頼者に損害が発生したとしても、保険からその補償を受ける事は出来ません。
見方を変えれば、相続放棄を行っている行政書士は、保険の対象にならない業務について、無責任に行っていると言えるのです。
6.まとめ
相続放棄は一発勝負の世界です。
ミスをしてしまい相続放棄の申述が却下された場合、そのリカバリーは事実上難しいと思って下さい。
また、いわゆる「三ヶ月」経過後の相続放棄はコツが必要になり、違法行為に堂々と手を染める、ロジカル・シンキングが欠落している行政書士に依頼するのは大変危険です。
全ての行政書士がこのような違法行為を行っているわけではなく、問題があるのは一部の行政書士です。
ただ、この一部の行政書士はあなたの無知に付け込んで、あなたを騙して仕事を取ろうとしているのです。
このような行政書士には絶対に近づかないようにして下さい。
相続放棄にお困り、お悩みの場合は弁護士・司法書士にご相談下さい。