障がいのある子供の為に。現代ビジネス「成年後見制度の深い闇」の考察

成年後見・財産管理

こんにちは。司法書士の甲斐です。

突然ですが、「現代ビジネス」と言うWebサイトをご存知ですか?

現代ビジネスは講談社が運営しているWebサイトで、主にビジネスマンに向けた記事を配信しています。

いわゆる仕事系の記事が多いのですが、気になった記事を見つけたので、今回取り上げてみたいと思います。

現代ビジネスでは「成年後見制度の深い闇」と言うシリーズを連載しており、そのタイトルどおり、成年後見の制度の問題点を投げかけているのですが、特に気になった記事がありました。

簡単に解説しますと、「知的障がいを持った子供の為に成年後見制度を利用したら、悲劇に見舞われた」と言う内容です。

成年後見制度の問題点を取り上げているのですが、若干一方的な内容も含まれていますので、プロの視点からこの記事を考察し、この当事者がどうすれば良かったのかをお話ししていきたいと思います。

なお、全文は下記のリンクからご覧になる事が出来ます。

障害者と家族からカネを奪う「悪質後見人」その卑劣(長谷川 学) @gendai_biz
認知症高齢者とその家族の問題と思われがちな成年後見制度。だが実は、障害を抱えて懸命に生きようとする若い世代の人生にも、大きな影を落としている。

1.記事の概要

埼玉県在住のFさん(60代)には知的障がいがある一人娘のYさん(30代)がいます。

FさんはYさんのため、後見の申し立てを行い、Fさんが後見人になりました。

Fさんは適切に後見人としての仕事を行っていたのですが、ある日突然、家庭裁判所から、何の説明もなく一方的に、後見支援信託の為に弁護士を新たに後見人に選任し、FさんのYさんに対する財産管理権を喪失させました。

その為、FさんはYさん名義で積み立てていた通帳を弁護士に渡す他なく、Yさん本人もFさん家族も資産を動かす自由を失った、と言う内容です。

Fさんとしては、

「何十年も娘のためにお金を貯めて、大切に育ててきたにも関わらず、その思いを踏みにじるような事をされた」

と言う思いがあります。

それでは、具体的に問題点等を考察していきましょう。

2.新たに成年後見人が選任される事について

今回、Fさんが成年後見人に選任されているのですが、家庭裁判所は新たに弁護士を成年後見人に選任しました。

つまり、娘のYさんには二人の成年後見人がついている事になります。

実は家庭裁判所は、必要があると認めた時は、職権で新たに成年後見人を選任する事が可能なのです(民法第843条3項)。

職権で行う事ができますので、Fさんへの説明や許可は一切不要です。

記事では実際に家庭裁判所は何ら説明を行わなかったようですので、この点についてFさんは不信感を持っているのでしょう。

しかし、残念ながら、家庭裁判所は法律上適切な行為を行ったに過ぎません。

3.後見支援信託とは?

後見支援信託とは、信託銀行が取り扱っている金融商品の一つで、日常生活に使わない金銭を信託銀行に預け、家庭裁判所の許可がなければその預けた金銭を使用する事が出来ない仕組みの事です。

親族の後見人が被後見人の財産を横領する事件が多発した事から、考えられた制度です。

後見支援信託を利用すれば財産の横領を未然に防ぐ事が出来るのですが、親の立場としては子供の財産を強制的に取り上げられたと思い、良い感情は持たないでしょう。

なお、財産が信託された場合、選任された専門職後見人の仕事はそこで終了になります(報酬は発生しますが)。

4.なぜ、今回「後見支援信託」が利用されたのか?

記事の中では後見支援信託が利用された理由は明記されていませんが、その理由は想像が出来ます。

おそらくFさんは、Yさんの今後の生活の為に貯金を長年かけて行い、その結果Yさん名義の預金残高がある程度の金額(1,000万円ぐらい?)を超えたのでしょう。

後見人は毎年一回、家庭裁判所へ業務の報告義務があります。

そこでYさん名義の預金が多くなっている事に気が付いた家庭裁判所は、Fさんの横領を防止する為、後見支援信託の利用を判断したと思われます。

弁護士や司法書士等の専門職後見人が横領事件を起こした場合、非常に注目されますが、実際には親族後見人の横領の件数の方がはるかに多いのです。

その為、家庭裁判所は親族後見人の財産管理について非常にナーバスになっており、後見支援信託の利用を決定したのだと思います。

5.障がいのある子供の為に成年(法定)後見制度を利用する問題点

① 後見制度は被後見人が亡くなるまで継続され、その間報酬が発生する

後見制度は被後見人が亡くなるまで続くのが大原則です。

今回の例で言えば、後見支援信託を利用しない場合、親であるFさんが亡くなっても、Yさんの後見人弁護士はそのままです。

恐らく、Yさんが亡くなるのは30年以上先になるでしょう。

その間、アカの他人である弁護士がYさんにずっと関与する事になるのです。

さらにその間、弁護士への報酬が発生します。

後見人の報酬は家庭裁判所が決定するのですが、毎月3万円ぐらいが相場です。

それが30年続いた場合、3万円×30年=1,080万円です。

なんと、被後見人の財産が生涯で1,000万円以上減る事になるのです。

なお、後見支援信託を利用すれば、専門職後見人が関与するのは一定の期間だけですが、それでも数十万円の報酬が発生します。

② 被後見人の財産は被後見人本人の為にしか使えない

後見制度は被後見人本人を守る為の制度です。

その為、被後見人の財産は被後見人の為にしか使用する事は出来ません。

記事ではFさんはYさんと「旅行に行きたい」と言っていますが、この旅行代をYさんのお金から出す事は出来ません。

この点、家族の視点から見れば「娘(子供)のお金なのになぜ自由に出来ないのか?」と憤慨されるかもしれませんが、制度上どうしようもないのです。

なお、「被後見人本人の為にしか使えない」と言う点は、親族後見人であっても同様です。

Fさんは「旅行にいくお金も出せないなんて!」と憤慨されていますが、後見制度の趣旨に従ったYさんの財産管理について、もしかしたら若干問題があった可能性があります。

その為、家庭裁判所が後見支援信託の利用を考えたのかも知れません(あくまで推測ですが・・・)。

③ 希望通りの後見人になるとは限らない

今回の事例は、最初の段階ではFさんが希望通り後見人になりましたが、後見人を選任する権限があるのは、あくまで家庭裁判所です。

その為、希望通りではなく、最初から専門職後見人が選任される事もあり得ます。

6.その他の問題点

Fさんがそもそも成年後見制度の利用を考えたきっかけは、東日本大震災でした。

「もし今後、首都直下型地震が起きても、私が後見人についていれば、私の命がある間は、娘の生活を見守って財産も管理して増やしてあげられる。誰かに騙されて高額な商品を買わされても、私が代理になって取り返すこともできる。申請通り私が後見人に選任されてやれやれと思いました」

実際に障がいを持つお子様を持つ方にとっては、非常に切実な問題だと思います。

その為、記事内にもありますが、FさんとFさんのご主人は、自分たちのお金をYさんの将来を考えてYさん名義で積み立ててきました。

しかし、知的障がいを持つ娘(子供)名義でお金を積み立てるのは大変危険です。

なぜなら、今回の事例のように後見制度を利用すると、子供名義の預金を自由に使う事は出来なくなるからです。

「自分達が積み立てたお金なんだから、自分達のモノだ!」と言ってもダメです。

名義はあくまで子供ですので、子供の財産として取り扱われます。

7.問題の解決策

それでは今回のFさん、どうすれば良かったのでしょうか?

おそらく、Yさんの預金の大半は、FさんとFさんのご主人が自分達のお金から積み立てたお金だと思います。

まず、この「子供名義でお金を積み立てる」事を絶対に行わない事です。

その上で財産管理について真剣にお考えであれば、家族信託の利用を検討してみてはいかがでしょうか?

家族信託は新しい財産管理の仕組みで、自分達のお金を障がいをお持ちのお子様の為に使う事ができ、さらに後見制度と比較してより自由度が高い財産管理が可能となります。

さらに、家庭裁判所の関与はありませんので、「家族の事は家族で行う!」と言うご希望を叶えてくれる制度の一つです。

家族信託についての詳細はこちらです。

ぜひご覧下さい。

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文責:この記事を書いた専門家
司法書士 甲斐智也

◆司法書士で元俳優。某球団マスコットの中の経験あり。
◆2級FP技能士・心理カウンセラーの資格もあり「もめない相続」を目指す。
◆「相続対策は法律以外にも、老後資金や感情も考慮する必要がある!」がポリシー。
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