遺産分割調停を自分で行う為に必要な能力

遺産分割協議・調停

【事例】
Q:半年前に亡くなった父の件で、相続人間で話し合いがまとまらず、この度遺産分割調停を行う事になりました。

私を除く相続人はそれぞれ弁護士を代理人にたてたのですが、私は出来る事であれば弁護士を代理人にたてるのではなく、自分で調停を行いたいと思っています。

理由は、遺産分割調停を弁護士にお願いされた方の話を直接聞いたからです。

その方は弁護士に対して総額200万円以上支払ったのですが、3年以上という長い年月をかけた割には、満足した結果が得られなかったと、弁護士に依頼をしていた事について後悔をしているからです。

そうであれば、私は自分で遺産分割調停を行い、納得するまで戦いたいと思っています。しかし、法律的な難しい話をされても分からないので、正直なところどうしようか迷っています。

遺産分割調停は、弁護士にお願いしなくて、自分でも出来るものなのでしょうか?

A:その方の能力次第ですが、ご自分で遺産分割調停を行う事は可能です。

1.遺産分割調停を自分で行うには?

「弁護士に頼らず、自分で遺産分割調停を行いたいのですが、どうすれば良いのですか?」

当事務所にご相談にいらっしゃる方で、ご自分で遺産分割調停を行いたいと言う、非常に前向きの方がいらっしゃります。

ご自分の問題をきちんとご自分の手で解決したいと言った、非常に積極的ですばらしい考えなのですが、遺産分割調停を行う為には、どうしてもそれなりの能力が必要になります。

今回は能力を中心にして、遺産分割調停を自分で行う方法を解説して行きたいのですが、その大前提として、遺産分割調停は平日の日中に行われる事に注意する必要があります。

つまり、平日の日中を自由に使う事が出来ないのであれば、そもそも自分で遺産分割調停を行うのは難しい為、そのような方(サラリーマン等)は、弁護士を代理人にたてる必要があります。

2.遺産分割調停を行う上で必要な能力

① ロジカルシンキング(論理的思考力)

ロジカルシンキングって、何だか非常に難しい印象を受けると思われるかも知れませんが、要するに「筋道が通っている物事の考え方」の事です。

誰かの話を聞いた時に、「なるほどね。それはあなたの言う事が正しいわよね」と妙に納得してしまう事ってありませんか?

この相手の話しについて「なるほどね」と思う事が、「筋道が通っている状態」「ロジカルシンキング(論理的思考力)が出来ている状態」なのです。

遺産分割調停は他の相続人および調停委員に、ご自分の主張をいかに認めてもらうかが必要になります。

その為には説得力がある話を行う上での能力であるロジカルシンキングが必須であると言えます。

逆に言えば、普段から

「あなたの話は何を言っているのかが良く分からない」
「要するに、どう言う事?」

等、まわりの方からこの様な注意を受けているようであれば、残念ながら自分で遺産分割調停を行う事は難しいでしょう。

② コミュニケーション能力

時間を無駄にする事なく、的確な調停を行う為にはコミュニケーション能力も必要です。

コミュニケーション能力とは、いろいろな定義があるのですが、ここでは意思疎通のキャッチボールだと思って下さい。

つまり、「相手の言った内容を誤解する事なく、きちんと理解する」「自分の言いたい事を、相手に誤解される事なく正確に伝える」この二つの事です。

例えば、良くあるパターンとして、
A「ご主人様はいつ亡くなられましたか?」
B「平成28年の11月です」

これはきちんとコミュニケーションが出来ている状態です。では、次のパターンはどうでしょうか?

A「ご主人様はいつ亡くなられましたか?」
B「ウチの主人が亡くなる前がすっごい大変だったんですよ。息子が消費者金融から借金をしていて、その借金取りが主人が入院している病院まで来たんですよ・・・」

これは明らかにコミュニケーションがすれ違っていますよね。

漫画のようにおかしな話ですが、しかし実際にこのような会話は良くあります。

「ご主人様はいつ亡くなられましたか?」と言う質問に対し、ご主人が亡くなる前後の記憶がよみがえり、思いついたままに喋ってしまう・・・。

本人は勿論悪気はないのですが、コミュニケーションと言う面では大問題です。

遺産分割調停はその相続の事について経験していない裁判官や調停委員に対し、正確、客観的に状況を理解してもらう必要があります。

その為、

「あなたは良く話題が飛ぶ」
「思いついたまま喋っているでしょう?」

等、まわりの方からこの様な注意を受けているようであれば、残念ながら自分で遺産分割調停を行う事は難しいでしょう。

以上、ご自分で遺産分割調停を行うのであれば、この二つ能力は必須となります。

「あれ、法律知識は必要ではないの?」

と、思われた方がいらっしゃるかも知れませんね。

確かに、ある程度の法律知識は必要なのですが、遺産分割調停はあくまで話し合いの場ですので、話し合いを行う為の能力であるロジカルシンキングとコミュニケーション能力が必須であると言えます。

3.まとめ -遺産分割調停は本人が行うのが原則-

実は、遺産分割調停は、本人が行うのが原則なのです。

その事は家事事件手続法にしっかりと明記されています。

家事事件手続法
(事件の関係人の呼出し)
第51条 家庭裁判所は、家事審判の手続の期日に事件の関係人を呼び出すことができる。

 呼出しを受けた事件の関係人は、家事審判の手続の期日に出頭しなければならない。ただし、やむを得ない事由があるときは、代理人を出頭させることができる。
(家事審判の手続の規定の準用等)
第258条 第41条から第43条までの規定は家事調停の手続における参加及び排除について、第44条の規定は家事調停の手続における受継について、第51条から第55条までの規定は家事調停の手続の期日について、第56条から第62条まで及び第64条の規定は家事調停の手続における事実の調査及び証拠調べについて、第65条の規定は家事調停の手続における子の意思の把握等について、第73条、第74条、第78条(第1項ただし書を除く。)、第77条及び第79条の規定は家事調停に関する審判について、第81条の規定は家事調停に関する審判以外の裁判について準用する。

このように、原則本人が調停を行うとされている理由は、複雑かつ合理的ではない感情の問題について正確に把握する必要があったり、家事事件はそもそも民事訴訟と異なり、本人自らの意思決定によるべきである事、等の理由が挙げられています。

その為、手続きの説明や進行も、法律の素人の方に非常に分かりやすく行われるのが一般的ですので、その点に関しては心配しなくても大丈夫でしょう。

つまり、上述したロジカルシンキングとコミュニケーション能力があり、「自分の問題をきちんと自分で解決する」と言った意思さえあれば、ご自分でも遺産分割調停を行う事は可能です。

なお、第51条のただし書きを見ますと、代理人を出頭できる条件が非常に限られているような印象を受けますが、弁護士が代理人についている時はただし書きをゆるやかに解釈する、例外的な運用がなされています。

「仕事ですっごく忙しくて調停なんて出れないのに、弁護士を代理人に出来ないなんてどう言う事だ!!」なんて事にはなりませんのでご安心下さい。

当事務所では遺産分割調停のご相談も積極的に承っております。遺産分割調停でお困り、お悩みの場合はお気軽にお問い合わせ下さい。

文責:この記事を書いた専門家
司法書士 甲斐智也

◆司法書士で元俳優。某球団マスコットの中の経験あり。
◆2級FP技能士・心理カウンセラーの資格もあり「もめない相続」を目指す。
◆「相続対策は法律以外にも、老後資金や感情も考慮する必要がある!」がポリシー。
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