父が死亡し、相続人が母と子の場合の相続手続きの流れと注意点

相続一般

(この記事は2019年8月6日に更新しました。)

こんにちは。司法書士の甲斐です。

本日は相続の基本でもある、お父様を亡くし、その相続人が配偶者である妻と子供の場合の相続手続きの流れと、その注意点のお話です。

日本人の平均寿命を見てみますと、男性の方が女性よりも短く、どうしても母親よりも父親の方が先に亡くなる確率が高くなります。

その為、初めての相続手続きは父の死から、と言うご家庭が多いでしょう。

このケースは世の中に良くある、ごく一般的な相続手続きですが、実はそれでも注意すべき点は存在するのをご存知ですか?

1.父が亡くなった場合の法定相続人と法定相続分は?

まずは基本的な事をおさらいしましょう。

父親が亡くなった場合の相続人は誰か?その相続分は?と言う問題です。

被相続人の配偶者は下記の第1~第3順位の相続人と同順位で、常に相続人になります。

配偶者の相続分は、他の相続人が誰かによって変わってきます。

・相続人が配偶者と子供の場合 → 2分の1
・相続人が配偶者と父母の場合 → 3分の2
・相続人が配偶者と兄弟姉妹の場合 → 4分の3
今回のテーマは配偶者(母)と子供が相続人ですので、それぞれ2分の1が相続分になります。
※子供が複数いる場合、2分の1にその人数をかけたものが、子供一人当たりの相続分です。
例えば、相続人が母と長男、二男の3人の場合のそれぞれの相続分は、
母  → 2分の1
長男、二男 → 4分の1
となります。
「子供」と言っても、いわゆる配偶者の連れ子等は、養子縁組をしていなければ法律上の親子関係にはありません。

2.父が亡くなった場合の遺産相続の手続きの流れ

相続手続きは被相続人や各ご家庭の状況によって多少異なりますが、概ね次のとおりとなります。

① 相続人の確定(戸籍謄本の取得)
② 相続財産の調査
③ 遺言書の調査
④ 相続財産の評価
⑤ 相続放棄or限定承認
⑥ 遺産分割協議
⑦ 相続財産の名義変更
⑧ 相続税の申告・納税(必要な場合)

それでは、具体的に手続きを見て行きましょう。

① 相続人の確定(戸籍謄本の取得)

まずは相続手続きの基本である、亡くなった方の出生から死亡時までの戸籍謄本を取得しましょう。

そもそも、どうして亡くなった方の戸籍を出生までさかのぼる必要があるのですか?

ご家族は相続人は誰であるか分かりますが、相続手続きを行う銀行や法務局(不動産)は、あなたの相続人が誰なのかが分かりません。その為、戸籍と言う書類で相続人が誰であるかを客観的に証明する必要があるのです。

さらに、戸籍は本籍地や改正を行う事で、それまで戸籍に記載されていた情報が、新しい戸籍に記載されない事があるのです。

え?そうなんですか?

はい。例えば亡くなった方が離婚し、その子供が元配偶者の戸籍に入籍した後に亡くなった方が本籍地を移動した場合、元配偶者の子供の情報は、新しい戸籍には記載されません。

元配偶者の子供も相続人になるので、亡くなった方の戸籍を出生まで遡って全て取得する必要があるんですね。

なお戸籍謄本は本籍地で取得する事が出来ますが、「本籍地」と「住所」は全く別のものであり、イコールではありません。

その為、戸籍謄本を取得する為には、亡くなった方の本籍地を知る必要があります。

相続人である子供が結婚をしていない場合、原則として両親と同じ戸籍のはずですので、その本籍地の戸籍を取得し、亡くなった方の戸籍を遡れば良い事になります。

なお、本籍地は住所と違って普段使いませんので、正確に把握している方は少ないと思うのですが、住民票を「本籍地入り」で取得する事で問題は解決します。

住民票には請求者の請求により、本籍地が記載されます。

例えば相続人であるご自身の住民票を本籍地入りで取得し、そこからご自身の戸籍謄本を取得する。

父親と一緒の戸籍に入っている場合、相続人である子供の戸籍を取ればそこから遡れますし、一緒の戸籍ではなくてもご自身の戸籍に父親の本籍地が記載されていますので、そこから遡る事が出来ます。

費用はかかりますが(300円)この方法であれば確実に亡くなった方の本籍地を確認する事が出来ます。

② 相続財産の調査

まず相続財産の調査を行わなくてはいけない理由ですが、

⑴ 相続財産を特定出来なければ、そもそも遺産分割協議が出来ない
⑵ 相続税の計算が出来ない

特に相続税の申告・納税は期限があります(10ヶ月)。

その期限を過ぎたら延滞税と言うペナルティーがありますので、速やかに相続財産の調査は行う必要があります。

具体的な調査方法ですが、亡くなった方の自室等を整理し、不動産の権利証(権利証が見当たらなければ、毎年市町村から届いている固定資産税納税通知書でも不動産は確認出来ます)、通帳等が無いか確認して下さい。

なお、自動車、書画や骨董品、貴金属等も相続財産になりますので、もれがないように調べましょう。

その他、郵便物の調査も忘れないようにしましょう。

投資信託や、他人への貸付金、消費者金融への借金等が判明する事があります。

③ 遺言書の調査

相続財産の調査と平行して、亡くなった方が遺言書を残していないかも調査しましょう。

遺言書があれば相続財産の分け方は遺言書が優先します。

亡くなられて方は誰にも内緒にしてこっそりと遺言書を作成している事もあります。

「あの人は遺言書なんて書いていない」と思い込まず、しっかりと調査しましょう。

⑴ 自筆証書遺言を発見した場合の注意点

亡くなられた方が自書した遺言(自筆証書遺言)は家庭裁判所での「検認」と言う手続きが必要です。

忘れずに家庭裁判所へ検認の申し立てを行いましょう。

なお、封がされた遺言の場合、検認の手続きの中で開封する必要があります。

絶対に勝手に開封しないようにしましょう。

⑵ 公正証書遺言の調査方法

昭和64年1月1日以降に全国で作成された公正証書遺言は全国の公証役場で検索・照会することができます。

お近くの公証役場で相続人である事が分かる資料(戸籍謄本等)があれば、亡くなられた方が公正証書遺言を残されていないかを調査する事が出来ます。

④ 相続財産の評価

遺産分割協議を行う上で目安にしたり、相続税の計算に必要な為、各相続財産がいくらになるのかを評価します。

現金や預貯金は金額そのものが出ており分かりやすいのですが、評価を行う上で問題になるのが不動産です。

不動産は(ここでは詳細は省略しますが)大きく分けて4つの評価方法があり、どの評価方法を採用するかによってその後の遺産分割協議に影響を及ぼします。

この点は相続人間で十分に話し合う必要があります。

⑤ 相続放棄 or 限定承認

相続財産の調査が終了したら、そのまま相続するのか(単純承認)、相続人としての地位を失わせる手続きを行うのか(相続放棄)、プラスの財産の中からマイナスの財産を精算するのか(限定承認)を選択します。

相続放棄、限定承認は被相続人が亡くなってから3ヶ月以内に行うのが原則でが、この期間は家庭裁判所への手続で延長する事が出来ます。

相続をするのか相続放棄を行うのか、判断に迷ったら期間を延長する手続を行う事を検討しましょう。

⑥ 遺産分割協議

単純承認を行う事を決めたら、各相続財産を誰のものにするのを決めます(遺産分割協議)。

各相続人には法定相続分がありますが(母が2分の1、子供が2分の1×子供の人数)、法定相続分に必ず従う必要はなく、相続人全員が同意すれば、自由な分け方を行っても大丈夫です。

なお、相続人が母と子供の場合、遺産分割協議には注意点があります(詳細は後述します)。

遺産分割協議が終了したら、遺産分割協議書もきちんと作成しましょう。

⑦ 相続財産の名義変更

遺産分割協議が終了したら、それに基づき各相続財産の相続手続き(名義変更)を行います。

⑧ 相続税の申告・納税

被相続人の亡くなった翌日から10ヶ月以内に相続税の申告・納税を行います(必要な方のみ)。

3.相続人が母と子供の場合の相続手続きの注意点

いよいよここからが本題になります。

このポイントを軽く考えていると、想定しなかった原因で他の相続人ともめる事がありますので、十分ご注意下さい。

① 父が住んでいた家(実家)の相続をどうするのか?

相続人が母と子供の場合、良くあるのが「母は実家に住んでおり、子供達は独立して別の家に住んでいる」と言うパターンです。

このパターンであれば、「実家は母が住んでいるので、母が実家を相続する」と言うのが自然な流れではないでしょうか?

相続人全員がそれで合意しているのであれば何も問題は無いのですが、子供達の相続分をまかなうことが出来るような他の財産が無ければ、もめる事があります。

「結局のところ、母が亡くなれば財産は全て子供達のものになる。財産が子供達の手に渡るのが少し遅くなるだけ」

と言う考え方もあります。

ところが、どうしてもお金が必要な事情があり、法定相続分はしっかりと貰いたい相続人(子供)もゼロではありません。

そのような時にどうするのかは、お互いがしっかりと話し合って結論を出すしかありません。

具体的には、

・母自身の財産から、他の相続人の法定相続分に匹敵する金銭を子供に渡す(代償分割)
・母には納得してもらい、実家を売却して売買代金を分配する(換価分割)。母の面倒は子供が責任をもって行う。
→子供には親を扶養する法律上の義務があります。

相続分をしっかりと欲しいと主張している相続人が見落としがちなのが、この親の扶養についてです。

子供は親を扶養する義務があり、母が住んでいて自宅を売却するのであれば、母の生活の面倒を当然にみる必要があるのです。

相続分と言う権利を主張するのであれば、親を扶養すると言う義務を果たすのは当然と言う結論になります。

どうしても法定相続分が欲しいと主張している相続人がいる場合、この「扶養義務」がある事もしっかりと伝えていきましょう。

② 二次相続対策の問題

相続税法が改正され、相続税の課税対象者が今までよりも増えた事から、この二次相続を考えた相続対策が書籍やセミナー等で注目されています。

その内容を簡単に説明します。

まず、配偶者は1億6,000万円か法定相続相続分までは相続税がかかりません(配偶者の税額軽減)。

ではそれを利用して母が全て相続し、その後に母が亡くなった場合(二次相続)には、相続人は全て子供ですので、配偶者の税額軽減は使う事が出来ません。

さらに一次相続と比べて相続人が一人減りますので、相続税の基礎控除の額も減ります。

結果として一次相続+二次相続の相続税合計金額を見てみると、一時相続で母が全て相続するのがベストとは限らない、と言う結論が出てくるのです。

その為様々な専門家が「二次相続を考えた相続対策を!」とセールストークを行っているのですが、実はこれは大きな問題をはらんでいるのです。

それは、「二次相続対策は所詮、子供の視点の話であり、母の事情は一切考慮していない」と言う点です。

具体例を出してみます。

最近多いのが、二次相続対策の為に、実家の名義を母ではなく、直接子供名義にするケースがあります。

子供は別の場所で生活していますので、実家では暮らしません。実家で暮らすのは母親のみです。

母親は別に今までどおり実家で生活出来ますので何も問題はないように思えますが、法律的に見れば母は他人(子供)の家をタダで使用しているに過ぎないのです。

その為、仮に母と子供の関係が悪くなった時に、子供が嫌がらせで実家を売却しようとしても、母はそれを止める事は出来ません。

亡き夫と夫婦二人で築いてきた財産なのだから、夫が亡くなれば自分の名義にして自由にしたい!

夫と多くの時間を共有し、一言では語れない人生を経験した妻(母)の素直な気持ちです。

それなのに「税金が安くなるから」と言う理由だけで自分の名義に出来ないのは、正直言ってムッとするでしょう。

その為、二次相続対策は慎重に行う必要があります。

③ 全て母に相続させたい場合

上記とは別のパターンです。

母の今後の生活費等を考え、「母に全て相続させたい」と言うご相談を承る事があります。

様々な事情もあるでしょうし、人情的にも非常に良く分かるお話しなのですが、これにも注意点があります。

まず一点目は、「二次相続を考慮した場合、相続税が高くなる可能性がある」と言う点です。

これはしっかりと事前にシュミレーションして、全て母に相続させるか、それ以外の方法を取るかを判断した方が良いでしょう。

もう一点は、「他の相続人がごねる可能性がある」と言う点です。

相続人が母親とあなただけであれば良いのですが、他にも相続人がいた場合、

「何でオレ、相続できないの?オレにも権利があるよね?」

と言われた場合、母親に全て相続させた方が良い理由をしっかりと説明できるようにしておく準備が必要です。

④ 全ての遺産を母親に相続させたい場合、家庭裁判所の相続放棄は絶対に行ってはいけません!

ここで、全ての遺産を母親に相続させたい場合の注意点を挙げます。

全ての遺産を母親に相続させたい人は、下記の内容は絶対に見落とさず、きちんと理解するようにして下さい。

それは、「家庭裁判所での相続放棄は絶対に行ってはならない」と言う点です。

分かりやすく説明していきますね。

家庭裁判所に対して行う「相続放棄」は、その効果として、相続放棄を行った相続人は、初めから相続人ではなかった事になります。

相続人は第1順位から第3順位まであるのですが、もし、第1順位の相続人であるあなた(被相続人の子供)が相続放棄を行った場合、相続する権利は第2順位の相続人に移行します。

ここで、相続の順位をおさらいしておきましょう。

第1順位の相続人 被相続人の子供
第2順位の相続人 被相続人の父母(若しくは祖父母)
第3順位の相続人 被相続人の兄弟姉妹

このポイントですが、最初にお話しした通り、第1~第3順位の中に配偶者はいません。

なぜなら、配偶者は第1~第3順位の相続人と同順位で、常に相続人になるからです。

と言う事は、第1順位の相続人が相続放棄をすると、相続人は配偶者と第2順位の相続人となるのです。

つまり、「全ての遺産を母親に相続をさせたい」と言う願いを叶える事ができなくなるのです。

だから、相続放棄ではなく、単純に遺産分割協議の中で全ての遺産を母親に相続させるようにして下さい。

⑤ 結局、どのようにすれば良いか?

実家を母が相続するのか、それとも子供が相続するのかは、ケースバイケースで決める必要があり、絶対的な答えはありません。

しかし、ある程度の判断基準はあります。それは、

・家族の人間関係
・家族の仕事、収入面

等を考慮して、総合的に考えれば良いでしょう。

・どんなに言いにくい事でも、きちんと話し合う事が出来る関係性か?
・相続人の中に収入に困っている者がいないか?

等、単純に法定相続分だけで考えるのではなく、このような事情も考慮して最終的な結論を出すと良いでしょう。

4.まとめ

相続人が母と子供と言ったオーソドックスなパターンであっても、問題点はあります。

相続は大きなお金が動く手続きです。

特に実家と言う分けにくい遺産が絡んできますと、大変な苦労を経験する事があります。

実際に、

「絶対に相続分がほしい相続人vs実家以外遺産が無いのだからガマンしなさいと言う相続人」

「色々と相続人でアイディアを出すけれど、結局どうすれば良いか自分達では決められない」

こう言ったお悩みを抱えて当事務所にご相談される方が全国各地に沢山いらっしゃいます。

「ウチは仲が良いし争いなんてならないよ」

と思われる前に、話し合うべき点や問題点を整理し、相続人間できちんと納得出来るまで話し合う環境を作るようにしましょう。

なお、

いいよね?分かるでしょ?しょうがないよね?

と言うような、相手の思いや考えをしっかりと確認しないで物事を進めないようにして下さい。

相続でもめる原因の99%は、この「誰か一人が相続を勝手に決める」と言うスタンドプレーです。

また、相続手続きは現状の把握と、正確な法律知識が必要になってきます。

まずはご自身で法律の事、相続手続きの事をしっかりと勉強してチャレンジしてみて下さい。

「いやいや、そんな時間ないし、そもそも難しいからムリ!」と思われた場合は、ご依頼するしないに関わらず、一度は専門家にご相談した方が良いでしょう。

当事務所もそうですが、無料相談を行っている事務所も増えていますので、上手く活用してみて下さい。

何となく中途半端に勉強して、

「こんな感じで大丈夫でしょ?失敗してもやり直せば良いから」

と言う考えで大失敗し、やり直しが出来ない状態になっては目も当てられませんので。

こんな感じで、様々な失敗をやってしまう可能性があります。

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この記事を書いた専門家

横浜市泉区の司法書士です。法律・老後資金・感情等多角的な視点から、自分らしい人生を送る為の認知症対策、相続対策をご提案します。元俳優/福岡県北九州市出身/梅ヶ枝餅、かしわめし弁当が大好き/趣味は講談/

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