父名義で購入した住宅の名義を相続対策のために変更したい場合

不動産登記

こんにちは。司法書士の甲斐です。

相続に関してのご相談を承っていますと、相続前にご自分の財産(住宅)の名義変更のご相談も承る事があります。

住宅を購入する際、所有者となる人間が、住宅の代金を支払うのが大原則です。

しかし、現実的には所有者として住宅を使用したいけど、何らかの事情で他の親族(父親等)が住宅を購入するケースが現実的にあります。

例えば、住宅を現金一括で購入する資金が無く、住宅ローンを利用したいと考えていたけど、様々な理由で住宅ローンの審査が通らない。

でも、その父親であれば住宅ローンの審査が問題無く通る場合、住宅の購入者(所有者)及び住宅ローンの契約者(債務者)を父親とし、実際の住宅使用及び住宅ローンの支払いは子供とするケースがあります。

しかし、父親も高齢になり相続の事を考え、「住宅の実質的な所有者は息子なのだから、相続財産となる前に、名義を息子に変更しておいた方が他の相続人間で揉める事なく後々楽だ」とお考えになられて、その方法について当事務所へご相談される方がいらっしゃいます。

今回は上記の事例で、どうやって父名義の住宅の名義を変更するのか?について解説していきたいと思います。

1.そもそも、父親名義の登記は無効では無いのか?

本来は息子が住宅を購入するはずだったのに、住宅ローンの審査が通らないと言う理由で父親が住宅の購入や住宅ローンの契約者になるのは、いわゆる名義貸しになる。

だから父親名義の登記は無効なのでは無いのか?と疑問に思われる方がいらっしゃるかもしれません。

しかし、その理由はどうあれ、住宅を購入する意思(所有者となる意思)、住宅ローンを利用する意思(債務者となる意思)がその父親にあれば、売買契約は有効であり、登記も有効です。

その為、売買契約の無効を理由として、所有権移転登記や抵当権(住宅ローン)の登記を抹消する事はできません。

2.名義変更の注意点

名義変更を検討する前に、注意すべき点が一つ有ります。それは、住宅ローンの事です。

住宅ローンを完済していれば何も問題は無いのですが、完済していない場合、住宅ローンの契約の中に「抵当権者(金融機関)の承諾を得ず、勝手に住宅の所有権を譲渡してはならない」と言った条項があるのが一般的です。

その為、名義変更をお考えの場合は、必ず住宅ローンを利用している金融機関に確認するようにして下さい。

なお、所有権を移転させる事については、法律上誰の承諾も必要ありません(ご自分の物をどの様に処分するのかは、ご自分の自由です)。

その為、抵当権者(金融機関)の承諾を得なくても、所有権を移転させる適切な法律行為を行えば、有効に所有権は移転されます。

しかし、その事と抵当権者(金融機関)に対して住宅ローンの契約違反の責任を負う事は別の問題となります。

無用なトラブルを避ける為、名義変更の際は抵当権者(金融機関)に確認を行うようにしましょう。

3.名義変更の方法

名義変更を行う方法としましては、大原則としまして、

・「売買」(住宅を息子に売却する)
・「贈与」(住宅を息子に無償で譲渡する)
・「交換」(父の住宅と息子の財産を交換する)

と言った、法律行為を行う必要があります。

「売買」「贈与」等のどのような法律行為にするのか、諸条件はどうするのか?(売買価格等)を当事者間で決めて頂く必要があります。

その後、「売買契約」「贈与契約」「交換契約」を締結し、契約書を作成後、住宅の名義変更の為の登記申請を行う、と言うのが一般的な流れです。

なお、「売買」「贈与」等の法律行為を原因として、所有権移転登記を行う場合は、それなりの専門知識が必要ですし、その知識を勉強する為の時間も必要となります。

もしご自分で登記まで行う事を考えられている場合は、一度管轄の法務局の窓口や、お近くの司法書士事務所にご相談されるのをお勧めします。

4.それぞれの法律行為の注意点

名義変更を行う為の各法律行為について、税金面を注意する必要があります。

所有権移転登記には登録免許税が必要となりますが、それ以外にも税金が発生します。

なお、ここで挙げたものはあくまで一般的なお話です。区別具体的なお話は税理士にご相談するようにして下さい。

① 売買の場合

売買を理由とする不動産の名義変更を行った場合、売主(父親)に対して、譲渡所得税が課せられる事があります。

また、買主(子供)に対して、不動産取得税が課せられます。

② 贈与の場合

贈与を理由とする不動産の名義変更を行った場合、財産をもらう方(子供)に対して、贈与税と不動産取得税が課せられます。

(ちなみに、贈与税については、相続時精算課税制度を利用する事も可能です。)

③ 交換の場合

交換の場合、税務上、不動産を譲渡(売却)したと考えます。つまり、父と子供に対して譲渡所得税や不動産取得税が課せられるのが原則です。

ただし、土地や建物などの固定資産を同じ種類の固定資産と交換したときは、譲渡がなかったものとする特例があり(固定資産の交換の特例)、その特例が利用できる場合、課税されない事もあります。

5.「真正な登記名義の回復」を登記原因として名義変更できないか?

ある程度、不動産の名義変更について勉強された方から、「真正な登記名義の回復」と言う登記原因で名義変更ができると聞きました、とお話をお伺いする事がございます。

「真正な登記名義の回復」とは、間違った理由で登記された権利(所有権等)を正しい権利者(所有者等)名義へ訂正する為に使われる登記原因です。

真正な登記名義の回復を利用したいその意図は、売買なら所得税、贈与なら贈与税、と言った税金がかかるが、「真正な登記名義の回復」であれば登記時の登録免許税だけですむので、支払う税金を安くしたい、と言う事です。

(ただし、真正な登記名義の回復を利用したとしても、絶対に所得税、贈与税を支払わなくても良いわけではありません。実質的に売買、贈与があれば、税金は課せられます。)

では、今回の事例において、真正な登記名義の回復は利用できるか、と言いますと、利用する事はできません。

真正な登記名義の回復が利用できる条件としまして、「登記が間違ってされた」事が条件です。

上記1の「そもそも、父親名義の登記は無効では無いのか?」でお話しました通り、法律行為が有効に成立しているのであれば、真正な登記名義の回復を利用できる余地はありません。

6.まとめ

今回の事例のポイントは二つです。

①住宅ローンを完済していない場合は、後々のトラブルを避ける為、住宅ローンを利用している金融機関に相談をする。
②「真正な登記名義の回復」は使用できない。

上記以外は、通常の個人間の売買や贈与と同じです。と言っても、不動産の名義を変更するにはそれなりの知識の勉強が必要です。

繰り返しになりますが、不安点、ご不明点等ございましたら、お気軽に当事務所やお近くの専門家にご相談下さい。

文責:この記事を書いた専門家
司法書士 甲斐智也

◆司法書士で元俳優。某球団マスコットの中の経験あり。
◆2級FP技能士・心理カウンセラーの資格もあり「もめない相続」を目指す。
◆「相続対策は法律以外にも、老後資金や感情も考慮する必要がある!」がポリシー。
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