
こんにちは。司法書士の甲斐です。
今回は、現実に良く有る「相手の相続人の弁護士から、相続の放棄を求められた場合の対応方法」のお話しです。
【事例】
内容は、私の叔父が先月亡くなったのですが、その相続の事です。
叔父には子供もおらず、相続人は叔父の配偶者である奥さんと、叔父の兄弟姉妹です。
しかし、私の父は既に他界している為、私が相続人になるそうです。
叔父には自宅以外、遺産はなく、奥さんの為にも相続(遺産)を放棄してほしいそうです。
もし遺産を放棄してくれるのであれば、ハンコ代として50万円を支払う、と言う事が書かれていました。
私は今度どのようにすれば良いのでしょうか?
1.大前提。絶対に無視をしない
まず、大前提として、弁護士からの連絡を絶対に無視しないで下さい。
無視をする事でメリットは無く、逆に不利益を被る事や、あなた自身が非常に嫌な思いをし、ストレスで体調を崩す事だってあり得ます。
被相続人が亡くなったと言う事はおそらく本当だと思いますので、弁護士からの連絡は無視をせず、必ず何らかの対応を行う必要があります。
2.弁護士が存在するのかを実際に確認する
まずは、連絡をしてきた弁護士が本当に実在するのかを確認しましょう。
弁護士は各県の弁護士会に登録を行う事が義務付けられています。
各県の弁護士会のホームページには、登録されている弁護士の検索機能があるはずですので、連絡をしてきた弁護士が実在するのかは簡単に確認する事が出来ます。
もしここで連絡をしてきた弁護士が実在しないのであれば、その自称弁護士とは交渉を行わず、相続人と直接連絡を取って交渉を行いましょう。
3.弁護士本人なのかを確認する
連絡をしてきた弁護士が実在している場合でも、第三者がその実在する弁護士に成りすましている可能性があります。
その為、その弁護士に直接電話で連絡し、本人なのかを確認しましょう。
この時の注意点は、手紙に書かれていた電話番号と各弁護士会のホームページに掲載されている弁護士の電話番号が一致しているか確認するようにして下さい。
もし一致していなければ成りすましの可能性もありますので、必ず各弁護士会のホームページに掲載されている方の電話番号に電話するようにして下さい。
弁護士本人である事を確認したら、
・内容を検討してまた連絡する事
を伝え、一旦電話を切りましょう。
※絶対に即答するのはNGです!
4.相続放棄を行う場合(家庭裁判所での手続き)
弁護士が本物である事が確認できたら、今後の対応方法を考えます。
弁護士から連絡が来たと言う事は、あなたが相続人である事は間違えありません(相続人を間違える弁護士はさすがにいないでしょう・・・)。
相続人は、被相続人の不動産や預金等のプラスの財産を相続するのと同時に、被相続人の借金等のマイナスの財産も相続する事になります。
その為、想定外の不利益を被る事を防いだり、そもそも相続に関わりたくない相続人の為に、家庭裁判所での「相続放棄」の手続きがあります。
相続放棄が認められますと、あなたは元々相続人では無かった事になりますので、プラスの財産、マイナスの財産全てひっくるめてですが、相続する必要はなくなります。
もし相続放棄を行う場合、弁護士にその旨を伝えて、「相続放棄申述受理証明書」を後で送付する事を伝えて下さい。
※相続放棄は家庭裁判所で行う必要があり、「相続しません」と言う意思表示だけでは成立しませんのでご注意下さい。
※相続放棄には期限があります(事例のような被相続人が亡くなった事を知らなかった場合は、弁護士からの連絡を受けて三ヶ月以内と考えて下さい。)
5.ハンコ代の交渉を行う(遺産がいらない場合)
事例のように
「被相続人の遺産が少なく、相続人全員の法定相続分を事実上まかなう事ができない」
場合に、ハンコ代(遺産分割協議書のハンコの事です)として、一人の相続人が全ての遺産を相続する代わり、他の相続人には数十万から数百万円のお金を交付する事があります。
このハンコ代に納得された場合はそのままお金を受け取れば良いのですが、ハンコ代の金額に納得がいかない場合や、「そもそも遺産はもっとあるはず!」と思われる場合は、ハンコ代の交渉を行いましょう。
なお、「遺産はもっとあるはず!」と思われた場合は、独自で遺産の調査を行う事を検討する必要があるでしょう(相続人であれば各金融機関等で遺産の調査は可能です)。
ちなみにハンコ代をもらう時の注意点は、あくまで家庭裁判での相続放棄ではなく、「遺産はいらない」と言う意思表示であると言う点です。
相続人である事には変わりありませんので、被相続人に借金があればそれを相続する事になります。
その為、弁護士に被相続人の借金が本当にないかを確認したり、ご自身でも被相続人の借金の調査を行うようにしましょう。
6.あくまで法定相続分等を主張する場合
相続放棄を行わず、ハンコ代にも納得できない場合は、あくまで法定相続分を主張する事が考えられます。
ただし、これは最終的には遺産分割調停や審判を見据える必要もあり、さらに遺産の額との折り合いになります。
本当に遺産が無い場合は、手間と時間をかけずにハンコ代で争いを終らせる事の方が良いケースがあります。
その為、事例のような場合は、法定相続分の主張は慎重に検討した方が良いでしょう。
7.まとめ
最後にもう一度、重要な事をお伝えします。
相続は時には、
「面倒な事に巻き込まれた!」
と思わずにいられない時だってあると思います。
「仕事で忙しいのに・・・」「家事で忙しいのに・・・」
自分の責任とは無関係の事で相続は発生しますので、そのお気持ちは良く分かります。
しかし、あなたが相続人である事は紛れもない事実です。
何もしなければ他の相続人が困りますし、あなた自身も予測できないような不利益を被ります。
弁護士(司法書士もそうですが)から相続の連絡がきたら、絶対に無視をしないで何らかの対応を行うようにして下さい。