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こんにちは。司法書士の甲斐です。
認知症関連で良くあるパターンが、
「親が認知症になってるのですが、親の自宅を売却する事は可能ですが?」
と言うご家族(特に子供)からのご相談です。
⑵ でもその為の入所費用等を用意するのにお金がない。
⑶ だから親名義の自宅を売却して、入所費用等に充てたい。
1.親の自宅は子供が勝手に売却できない
まずは基本中の基本のお話しです。
親名義の家は子供が勝手に売却する事はできません!
「いや!当たり前でしょ!!」
と言うツッコミの声が聞こえそうですが、実は分かっていない人も多いのです。
また、自分の自宅を売却する為には、
⑴ 「売ります」と言う意思表示
⑵ 自宅を売却すると言う事がどう言う事なのか?(自宅に住む事が出来なくなる等)
を自宅の所有者本人が行ったり理解する必要があります。
なお「私が親の代理人です!」なんて事を言って契約を迫る人も中にはいるのですが、その代理権が確認できない限り無理です。
他人の物を勝手に売却できないのは当たり前です。
それが親子関係になると何故か意識されなくなってしまうのですが、ダメなものはダメなんです。
2.「親の自宅を売却したい」と思った時点で既に遅い
そもそも、人間は「予防」と言う観点をどうしても軽く見てしまい、痛みを伴う問題が目の前に起きて初めて行動する生き物です。
その為、実際は「認知症の親の自宅を売却したい」と思い、不動産会社や法律家に相談をしようとした時点で、『もう時すでに遅し』と言うケースがほとんどなんです。
「後からでも何とかなるでしょ。」
と楽観的に考え未来の予測を大幅に甘く考えた結果、どうする事も出来なくなるのです。
実際に聞いた事例をご紹介します。
とある司法書士に「認知症の親の自宅を売却したい」と言うご相談が子供からあり、その司法書士が認知症がどのようなレベルなのかヒアリングすると、
「別件で公正証書遺言を公証人に依頼したのですが、公証人は『これであれば意思能力に問題はありません。』と言っていました。」
とその子供が回答しました。
そうであれば大丈夫かな・・・とその司法書士は思い、実際に親と面談をしたのですが、ビックリ!
その方は「あー」とか「うー」とかしか発音する事が出来ず、筆談を行ったとしても、自宅を売却する意思やその意味を到底理解出来るとは言えない状態でした。
当然その司法書士は法定後見制度を利用しない限り無理である事を告げたのですが、子供は大激怒です。
「公証人が問題ないと言ったのになぜ出来ない!お前は詐欺師か!!」
なんてボロクソに言われたそうです。
その公証人がなぜそのような判断をしたのか分かりませんが、ダメなものはダメなんです。
3.バレなきゃ大丈夫でしょ?
「とは言え、誰も何も言わなけりゃ問題ないでしょ?バレなきゃ良いんでしょ?」
と言うご意見があります。
不動産の売主に意思能力が有っかったのか?
最終的に判断するのは裁判所です。
つまり、誰かが不動産の売買契約の無効の裁判を行わない限り分かりません。
だからこそ『バレなきゃ良い』と言う結論を出す人がいるのですが、当然この考え方は間違っています。
そもそも、本当にバレないのでしょうか?
今は仲が良い家族でも、将来もしかしたら何らかの確執を生む可能性があるでしょう。
その為、嫌がらせ的に親の死後、自宅の売買契約の無効を訴える事だって考えられます。
仮にそのような事が無かったとしても法的なリスクがありますので、協力してくれる不動産会社や司法書士は非常に少ないでしょう。
4.無理やり物事を進める不動産会社
法的なリスクがある不動産取引に関与する不動産会社は少ないのですが、中にはこんな考えの不動産会社があります。
「お客様の問題を解決してこそプロフェッショナル。目の前の問題について『出来ない』のではなく、『出来るように』考えるんだよ!」
確かにその通りです。
この点で「売買契約は無理」と判断した司法書士を、自己のブログやTwitterで批判する不動産会社経営者の方もいらっしゃいます。
しかし、この考え方はハッキリ言って無責任です。
法的に無理なモノは無理であり、適切に不動産の売買契約を行う為には、家族が嫌がったとしても法定後見を利用しなくてはいけないのです。
5.まとめ
当ブログ内で何度かお話しをしていますが、日本の法制度の特徴として、何らかの法的トラブルが起こった後では、その解決は難しいのです。

家族信託等、早めに何らかの対策を行っていなければ、意思能力・判断能力が無い人の不動産を売却する場合、法定後見制度を利用するしかありません。
冷たいようですが、それが現実です。
人は今後起こり得るリスクに対して、どうしても過小評価してしまう生き物です。
その事をしっかりと意識していれば、事前の対策を行う十分な時間を取れるはずです。
「何とかなる」のは運が良い場合だけで、ほとんどの場合は何とか「なりません」。
自分自身で積極的にリスクと向き合い、事前に対策を行う事で初めて何とか「なる」のです。