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こんにちは。司法書士の甲斐です。
相続=もめると言うイメージは、ほとんどの方がしやすいと思います。
実際に様々な専門家が、相続でもめる理由や相続対策が重要である事を様々な場面で語っているからです。
でも、さらに一歩深掘りし、相続でもめる理由、その根本的な理由を解説している専門家はほぼいません。
今回は相続でもめる根本的な理由をお話しします。
誰もが相続対策を行うべき理由、それは現状の法律の不備と正常性バイアスが関係しているのです。
1.トラブルが起こった後では、法的な解決が難しいから
相続に限らず、何らかの法的トラブルが発生した場合の解決方法として、最終的には民事訴訟等、裁判所を利用した手続きが考えられます。
例えば、誰かにお金を貸して返してもらえない時、相手を訴える事を考えるでしょう。
「貸したお金を返してもらえないのだから、当然裁判にも勝てるはず。」
ほとんどの方がそう思われるのですが、現実はそんなに甘くはありません。
まず、裁判に勝つ為には証拠が必要になります。
お金を貸した場合、借用書等ですね。
裁判所は当事者がどのようなやり取りを行ったのかを実際に体験していません。
その為、当事者に争いがある事実については、どうしても客観的な証拠が必要になってくるのです。
相手がお金を借りた事実を認めれば良いのですが、そうではない場合、証拠が必要になります。
証拠が無ければ、裁判ではほぼ100%負けるでしょう。
相続でも同じです。
例えば亡くなった親を面倒見ていたので寄与分を主張したい場合、どのような介護をどれくらいの期間行っていたのかの証拠が必要になってきます。
また、法律上は子供が親の面倒を見るのは当然とされていますので(扶養義務)、その扶養義務を超えた扶養を行わない限り、寄与分が認められるのは中々難しいのです。
「法律は正しい者の味方ではないのか!!そんなの納得いかない!!」
お気持ちはごもっともです。
しかし、日本の法律の仕組みは、事前に対策した人ほどその恩恵を受け、逆に何ら対策をしなかった人に法的トラブルが発生すればする程、その解決が難しくなっているのが現状なのです。
2.そもそも、なぜ人は問題解決を後回しにするのか?-正常性バイアス-
昨今では書籍やインターネット、TV等で、相続に関する様々な情報を簡単に入手する事が出来ます。
ドロドロな相続トラブルに関する情報だってそうです。
それでも、相続対策を行うご家庭はごく一握りです。
なぜ人はこのように問題を後回しにするのか?
それは人間には「正常性バイアス」が備わっているからです。
「正常性バイアス」とは、今後発生するであろうリスク等に対して、
「ありえない」「そんな事起こるわけがない」
と根拠なく思う先入観や偏見(バイアス)が働く心のメカニズムの事です。
これは東日本大震災や台風等でも度々話題になっています。
自治体が「避難して下さい」とどんなに呼びかけても避難しない方が一定数存在します。
この時に彼らは「避難して下さいと言われているけど、ウチは大丈夫だろう。」と思っているのです。
でもその「大丈夫だろう」には何ら根拠がなく、結果として水害等で孤立状態になり、自衛隊の救助を待つ、なんて事が良くあります。
このように正常性バイアスは目の前の問題に対して鈍感になる非常に厄介なヤツなのですが、それでも人間の心にとっては必要な存在です。
この正常性バイアスが無ければ、心が常に不安やストレスに晒されてしまい、簡単に壊れてしまいますので。
しかし、この正常性バイアスのせいで、
「ウチは相続でもめる事はないし、大丈夫だろう」
と思い、何ら対策を行わない結果、残された家族が大変苦しむ事があるのです。
3.そもそも、相続トラブルは相続分を巡ってもめるだけではない
そもそも、相続トラブルは相続分を巡るトラブルだけではありません。
実務上非常に多いのが、相続人の一人が相続手続きに一切協力しない=遺産分割協議ができないと言う事例です。
相続人同士の人間関係や心の病気等、様々な原因が考えられるのですが、他の相続人からの連絡に一切応じなかったり、印鑑証明書等必要な書類を送って来ないケースです。
相続分でもめているわけではないので、簡単に問題が解決するのでは?と思う方がいらっしゃるのですが現実はそう甘くはありません。
仮に遺産分割調停を行ったとしても相手は応じないでしょう。
そうすると遺産分割審判を行って・・・と裁判所の手続きを踏もうとすると、それなりの時間が必要になります。
(最近では遺産分割調停や審判に係る時間は昔より短くなってはいるのですが、それでも数ヶ月はかかります。)
その間、相続人全員は日常生活を犠牲にし、無駄なストレスにさらされる・・・と言う悲しい結末になるのです。
4.まとめ
もう一度まとめます。
日本の法律の仕組みは、
・逆に何ら対策をしなかった人に法的トラブルが発生すればする程、その解決が難しくなる。
また、上述したとおり正常性バイアスの「何とかなるだろう」と思う事自体は何も悪い事ではありません。
しかしその一方でリスクに対して鈍感になりすぎた結果、残された家族に不幸をもたらす事があるのです。
大事なのは正常性バイアスの存在をきちんと客観的に認識し、「本当に問題がないのか?」と自問自答する事です。
これが出来る人と出来ない人では、その後の未来に大きな差が出てきます。
あなたの人生プランが失敗になるのか否か、まさにあなたの行動一つにかかっているのです。