アパート経営者は必見!認知症リスクに備えるための家族信託

民事信託・家族信託の基本

こんにちは。司法書士の甲斐です。

成年後見制度の問題点が様々なメディアで取り上げられる一方、成年後見制度の代わりとして「家族信託(民事信託)」の特集記事が沢山組まれています。

どうしてこのような特集が頻繁に組まれているかと言いますと、一言で言えば、「認知症対策」の為です。

現在65歳以上の方の約7人に1人は認知症と診断されており、認知症になれば今まで出来ていた様々な事が出来なくなります。

財産面に関しても同様で、自分の財産をしっかり守っていきましょう!と言った意味でも認知症対策は重要になってきます。

そして家族信託は認知症対策としても有益なのですが、若干難しい制度であり、イメージしにくい点もあります。

そこで今回は、アパート経営を例にして、分かりやすく解説します。

なお、下記にご紹介するアパート経営はあくまで事例の一つですので、ご自宅の管理でも応用する事が可能です。

1.家族信託とは?簡単に説明します。

家族信託とは、ザックリ言うと次のような法律上の制度です。

・ご自身の財産を信頼ができる家族に託して、
・財産を託された家族は事前に定めたルールに従って、
・特定の人(財産を託した人以外でもOK)のために、
・託された財産を管理したり、処分をおこなうこと。
投資信託をイメージしてみてください。投資信託は沢山の投資家から集めた資金を一つにまとめて、投資の専門家である運用会社が分散投資を行い、その運用成果を投資家に分配する「金融商品」のことです。投資家は自分の資金を投資目的で運用会社に託しているわけです。

でも、信託は別に投資目的以外でも活用する事が出来ます。

例えば、自分のアパートや投資用ビルの管理を任せて、場合によっては売却等の処分を行ってもらうために「託して」も良いのです。

家族信託はこのような仕組みを信託銀行等が行うのではなく、個人でも行う事をできるようにした制度なのです。

2.アパート経営者が認知症対策をしていない場合のリスク

① 対管理会社との関係でどうしますか?

実際のアパートの管理については、管理会社にお任せしている方が多いと思います。

この管理会社とのやりとり、様々な契約を行っているからこそ成り立つものです。

その為、もし認知症になって意思能力・判断能力が不十分になった場合、管理会社とのやり取りが出来なくなり、アパート経営がストップしてしまうかもしれません。

② 大家としての責任、きちんと果たせますか?

さらに、アパート経営を行うと言う事は、大家としての責任があると言う事です。

細々とした事は管理会社が行ってくれますが、大家として様々な対応を行う事が必要なケースもあるでしょう。

その時に大家が認知症等で意思能力がない場合、果たして適切なアパート経営ができるでしょうか?

③ アパートを売却する事ができない

資産として手放し、現金を確保したいと言うケースが発生した場合、通常であれば売主としてアパートを売却する事ができます。

しかし認知症になって売買契約に必要な意思能力・判断能力が不十分になった場合、売却する事は出来ません。

資産としてのアパートはまさに「塩漬け状態」になってしまうのです。

アパートを持っていて家賃収入があったとしても、認知症になったら経営そのものに支障をきたすと言う事ですね。今までの事が全く無意味になってしまいますね・・・。

そのとおりです。アパート経営はまさに「経営」ですので、オーナーが認知症になってしまえば経営がストップしてしまうんです。だからこそ、オーナーの認知症対策は重要になってきます。

3.家族信託以外の解決方法

① 生前贈与

アパートを相続人の誰か(子供等)に生前贈与して、アパート経営を託す方法です。

所有者が変更しますので、認知症対策としては一定の成果があります。

ただし、下記のような問題点があります。

・一般住宅と比べ、アパートは評価額が高い。その為、相続時精算課税制度を利用しても、贈与税が高くなる事がある。

・遺産の前渡しのような形になるので、他の相続人との間で不公平さが生まれる可能性が高い。

② 任意後見

任意後見契約の中でアパートの管理等の事を明記していれば、本人が認知症等の意思能力・判断能力が不十分になった時に、任意後見人がアパート経営を引き継ぐ事になります。

一見問題なさそうですが、アパート経営特有の注意点があります。

それは、アパートの大規模修繕です。

任意後見制度は任意後見人の仕事をチェックする任意後見監督人が必ず選任されます。

そして、築年数がそれなりに経過しているアパートの場合、大規模修繕が必要になる事があるのですが、

任意後見制度で多額なお金がかかる大規模修繕が、任意後見人の権限としてできるのか?

と言う点について様々な議論があり、監督人との考え方の違いが生じる場合があり、「明確に大丈夫!」とは言えない現実があるのです。

職業後見人として任意後見を何件も受任している先生でさえ、「多分・・・大丈夫なんじゃない?」と言う歯切れの悪い回答が返ってくる事があります。

4.上記の問題を解決する、家族信託

では、家族信託を利用するとどのようにこの問題を解決できるのか、お話します。

アパートの所有者(親)を委託者兼受益者、受託者を子供とします。

信託の内容として、アパートの管理や場合によっては処分(担保権設定も含む)出来る事を明記しておきます。

信託財産はアパートと、その維持管理や将来の大規模修繕に必要な金銭です。

アパートの名義は受託者である子供に移りますが、好き勝手な事はできず、予め信託契約書の中で定めた範囲でしか、その権限を行使する事はできません。

この方法であれば、アパート経営は子供に託し、その家賃収入は受益者である親が受け取る事が可能になります。

また、管理会社とのやり取りや大家としての責任も、受託者が行う事が可能になります。

法律上も問題なくアパート経営ができるって事ですね。まさに「信じて託す」ですね。でも、これだけ使い勝手が良い制度で、逆にデメリットは無いのですか?

デメリットと言うより、注意点はありますね。下記の点は要チェックです。

・受託者は他人の財産を管理する上で、法律上の様々な義務がある。
・他の所得との損益通算ができない。
・家族信託は複雑な制度である為、専門家への報酬が割高になる。

5.まとめ

家族信託は認知症対策として、自宅の管理の一環として利用される事が多いのですが、アパートや投資用ビル等、自宅以外の不動産でも利用する事ができます。

何度もお伝えしますがアパート経営は「経営」ですので、認知症になれば経営そのものがストップしてしまいます。

せっかくの資産を塩漬けさせないためにも、今後も有効活用するためにも、認知症対策は真面目に考えていきましょう。

文責:この記事を書いた専門家
司法書士 甲斐智也

◆司法書士で元俳優。某球団マスコットの中の経験あり。
◆2級FP技能士・心理カウンセラーの資格もあり「もめない相続」を目指す。
◆「相続対策は法律以外にも、老後資金や感情も考慮する必要がある!」がポリシー。
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